に触れた後は、気分が悪くなっていたのに。今は何ともない……。
「…………」
そっと手を伸ばし、經血過多、經痛惹不育疑雲!醫生詳解子宮腺肌症症狀 - 希愈醫療 畳の上へ流れる桜花の髪へ触れた。
「…………やはり平気だ……」
元々男だと思っていたからなのか、それとも時折起こる不思議なが関係しているのか。
──いや、そもそもこの人が本当に女子だとは限らない。私の聞き間違いかも知れない。
手を膝の上へ戻すなり目を瞑った。きっと悪夢は見ない──そんな気がした。に目を覚ました桜花は上体を起こし、辺りを見渡す。周囲は薄暗く、目が慣れるまでに時間がかかる。
「……ここは…………」
近くには自身が看病に当たっていたはずの藤堂やその他の傷病者が横たわっていた。
──そうだ。確か私は、白岩さんに呼ばれて壬生寺に居た筈だった。なのに、どうして此処にいるのだろう。
頭が鉛のように重く、何も考えたくないという気持ちになる。怠さを振り払いつつ、ふと枕元へ視線を移せば、そこにはが置いてあった。
吸い込まれるように手を伸ばし、指が触れるなり左胸の痣がぎゅっと締め付けられる。
『吉田先生は……ッ、──亡くなられた……』
脳裏には白岩の言葉が妙に鮮明に響いた。
「───ッ」
途端に気分が悪くなり、外の空気を求めるように刀を手にしたまま部屋をふらふらと飛び出す。白み始めた空が手元を仄かに明るくした。
その柄巻には所々血痕が付着しており、それを見た桜花は目を見張る。一度震え出した手はなかなか止まらなかった。の文字が色濃く浮かぶ。
「…………うそだ……。ウソだ、嘘だ……」
嘘だよ、と蚊の鳴くような声で呟いた。あれは悪い夢だったのだと何度も自身へ言い聞かせる。
その時、カタリと戸が開く音がした。弾かれるように振り向けば、そこには沖田が立っている。
「あ…………」
その顔を見るなり、昨夜気を失う前に見た人物が彼だったことを脳が認識し始めた。
「桜花さん、気分は如何ですか」
「そ、の……。です。……沖田先生ですか、私を此処へ運んでくれたのは」
大丈夫だと言いながらもその顔色は悪い。今にも倒れそうな顔をしている、と沖田は目を細めた。
「ええ。驚きましたよ。偶然風に当たろうと壬生寺へ行ったら、貴方が居るものだから」
「そうでしたか……。有難うございました。……その、失礼します」
頭を下げて去ろうとするが、その背へ言葉が投げかけられる。
「──桜花さん。の件について、後日お話を伺っても良いですか」
それを聞くなり、血の気が引いていく。表情は見えない上に、言葉に感情は含まれていなかった。怒りすら感じず、それがむしろ恐ろしい。振り向く勇気すら無く、桜花はただ「はい」と返事をした。 その日の昼間のことである。昨夜の悪天候は嘘かのように晴れ間が覗いていた。
桜花はいつもの様に洗濯物を畳みながら、ぼんやりとそれを見上げる。
未だには夢物語のように実感が無い。むしろそうならどれだけ良いのだろうか。だが、沖田という目撃者が居たことでそれが夢では無いと知らしめられた。
──あの後、白岩さんは姿を
ましたらしい。きっと私は新撰組に殺されてしまう。けれど、此処から逃げたところで、行く宛てなんて無い。藤婆のところも斎藤さんにバレている。
「──ちゃん、桜ちゃん」
意識を取り戻させるかのように、小さな手がその腕を引っ張った。桜花はハッとしながらその方へ向く。するとそこには心配そうに眉を寄せる勇之助がいた。
「あ……、勇坊……。ごめんね、考え事をしていて」
「朝から何か変やで。具合悪いん?」
その問いに桜花は視線を落とした後、にっこりと笑みを作り首を振る。
「……大丈夫よ。それで、何の話だっけ」
「今日、祇園祭の山鉾巡行の日やでって。桜ちゃん楽しみにしとったやろ?」
「祇園祭……山鉾、巡行……」