桜花はそれを横目に、沖田や残りの隊士の看病を続けた。
やがて日が暮れると、医術の心得がある他の隊士と役割を交代する。
八木邸の門を潜ったあたりで立ち止まった。【糖不甩x藥劑連線:女性健康專題 】 空を見上げれば、晴れ間だったところへ雨雲が重なるように流れてきている。
「池田屋…………」
松原から聞いた名を再度呟く。胸の奥がザワついて嫌な予感がした。
──どうしてこんなにも気になるんだろう。早くこの気持ちを振り払いたい。許されるのなら、今すぐにでも駆け出して会いたい。
きっとあの優しい涼し気な笑顔を見れば、この感情は杞憂に終わるはずなのだ。
その憂いを払うように頭を振ると、桜花は自室へと戻る。
すると投げ文がされていることに気付く。
それを手に取り、開けるとそこには"夜四ツ壬生寺ニテ待ツ"と書かれていた。 その夜は気温が下がり涼しいものだった。何処かからは雷鳴が聞こえ、今にも雨が降りそうである。
偶然にも壬生寺には先客が居た。起き上がれるまでに回復した沖田である。何やら考え事をするように、本殿の柱に背を預けていた。
袖口からある物を取り出すと、それを目の前へと掲げる。
──何故、の袖から桜花さんの御守りが出てきたのだろう。まさか……、は間者なのか。それとも、たまたま同じ物を持っていたのか。
そのようにぼんやりと考えていると、境内の砂利を踏む音がした。咄嗟に柱の後ろへ隠れる。
このような夜更けに一体誰が、と様子を伺った。どんどん足音が近くなり、近付いてくるのが分かる。
今は刀も持っていないことも相俟って、沖田は息を殺して潜んだ。
──あれは……。
暗闇から姿を見せたのは、まさに今考えていた人物である。沖田は軽く目を開くと息を呑んだ。
しかしその存在に気付かない桜花は近くの階段へと座る。
やがて時を経たずして、もう一人の足音が聞こえてきた。慣れてきた目を凝らすと、それは白岩ということに気付く。手には刀があった。
何故この二人が、と沖田は眉を寄せる。
その姿を認めるなり、桜花は立ち上がった。
「ええと、白岩さん……でしたっけ。貴方ですか?私を呼んだのは」
「ああ…………」
いつもに比べて白岩はずっと言葉数が少ない。どこか放心しつつも厳しい表情を浮かべ、俯いていた。
「……君に伝えたいことがある。その前に、一つ確認してもええか」
「は、はい」
上方の訛りでは無く、それは別の訛りに聞こえた。別人のような雰囲気を受けて、桜花は思わず一歩後ろへ下がる。
「──君は、吉田先生の恋仲、か?」
「へ…………」
だが白岩から出て来た名前に、素っ頓狂な声が出た。それと同時に桜花の顔はみるみる赤く染まる。
そして首を何度も横に振った。
「い、いえ!そんな……。私達はまだ……」
「、か」
「吉田さん……吉田栄太郎さんのことをご存知なのですか?」
その問いに白岩は心做しか力無く頷いた。
対して桜花はそれを聞くなり顔を強ばらせる。新撰組隊士である彼が、長州藩士の吉田を知っているというのは喜ばしいことではないからだ。
「…………先生は、今は吉田先生と改名しとる。栄太郎というのは幼名じゃ」
「ち、ちょっと待って……!どうして、貴方がそれを知っているんですか。それに、その話し方…………。もしかして……貴方は──」
そこまで言いかけて、桜花は口を噤む。殺気立った視線を向けられたからだ。
何人もの人を殺めたような鋭いそれに、ぶるりと背筋が粟立つ。それでも、自身を奮い立たせながら口を開いた。
「よ、吉田さんは……ッ。昨夜の、い、池田屋での騒動には関わってません、よね……。も、もし……知っていたら教えてください……」