そのような弱気が頭を過ぎり

そのような弱気が頭を過ぎり、胸元を掴む。すると懐に何かが入っていることに気付き、手を差し入れた。

 

 

「…………御守り……」

 

 

 それは吉田が落とした例の御守りだった。孫慧雪患腺肌瘤打安胎針保B 一文睇清腺肌症症狀及飲食禁忌 僅かに力を込める。すると、

 

 

『沖田先生』

 

 

 たちまちその声と共に、脳裏にはの姿が浮かんだ。頬を染め、柔らかな表情でこちらを見ているのだ。

 

 

 沖田は目を見開くと、驚いてそれを落とす。慌てて拾うが後は何も起こらなかった。

 

 

「…………一体、あなたは何者なんですか。教えて貰いますからね」

 

 

 その答えを聞くために助けるのだと自身へ言い聞かせながら、桜花の元へと向かう。

 

 

 そして片膝を付くとその背へ触れた。自身の手に震えが走るも、それを振り払うように声を掛ける。

 

 

「──桜花さん、大丈夫ですか。ゆっくり息を吐いてください」

 

 

 背を擦りつつ、片手で肩を掴んだ。その細さにびくりと怖さを感じる。男と同様に木刀を振り回してるのにも関わらず、このようにも細かったのかと驚きを隠せなかった。

 

 

「……お、きた、せんせ……?」

 

 

 苦しげに息を漏らすその瞳には、漆黒の闇のような、絶望の色が宿っていた。

 

 

──何故沖田先生がここに居るのだろう。もしかして先程のを聞かれてしまったのかな……。

 

 ぼんやりとする頭でそう思ったが、もう何もかもどうでも良いと目を閉じた。

 

 

「どうしよう……。……ああ、そうだ」

 

 沖田は前に女子に触れた後に自身がこうなった時に、近藤がしてくれたことを思い出す。

 

 

 桜花の両肩を掴むと、自身へ引き寄せた。力無く胸元に顔が収まる。その刹那にふわりと甘いような匂いがした。男の汗臭さではなく、女子特有のそれに目を見張る。

 

 その感覚に肩を跳ねさせるが、必死で背を擦った。

 

 

「大丈夫です。大丈夫ですよ」

 

『総司、大丈夫だ。大丈夫だからな』

 

 

 耳には近藤の温かい声が響く。

 

 そうしているうちに、桜花の呼吸は安定し規則的なものに戻った。

 

 

 それに安堵しつつ、身体を離すと顔を覗き込む。しかし暗がりのため表情はハッキリとは分からなかった。

 

 

「……桜花さん、立てますか」

 

 

 そう問いかけるが、返事が無い。憔悴した桜花にはそのような気力が残っていなかった。

 

 沖田は視界を彷徨わせるなり、決心したように顔を上げると、刀を抱えた桜花を横抱きにして持ち上げる。

 

 そして病人が集められた部屋へ向かった。いくら軽いと言えども、二階へ続く狭い階段を上るのは無理があったためである。 看病を担当していた山崎がそれに気付き、駆けてくる。

 

「沖田先生、どないしたんですか。その人は確か、八木はんとこの……?」

 

「……ええ、どうやらのようです。私達の看病をずっとしてくれてましたからね。壬生寺で具合が悪そうだったので連れてきました」

 

 

 沖田はそれ以上何も聞いてくれるなと言わんばかりの視線を向けた。それを察した山崎は頷くが、何かを思い出したかのように口を開く。

 

 

「あ……床が足らへんわ。用意しますよって」

 

「大丈夫です。私の床を使ってもらいますから」

 

 

 沖田はそう言うと、自身の床へ桜花を横たわらせた。そもそも自身が暑気中りであったため、比較的風通しの良い場所に用意されている。

 

 

「それやと、沖田先生が……」

 

「私は沢山眠りましたから。このまま起きてますよ……。山崎君も少し休んで下さい、働き詰めじゃないですか。何かあったら起こしに行きますから」

 

 

 そう言いつつ、山崎を部屋から追いやった。自身は桜花の眠る傍の柱に凭れながら、空を見上げる。

 

 人間の愚かさを笑うように雷鳴が轟き、桶を引っくり返したかのように雨が激しく降り始めていた。

 

 

 沖田は眉間に皺を寄せて眠る桜花を横目で見ると、自身の手のひらへ視線を向ける。

 

 

──あれほど