長州ん者がやっ

長州ん者がやったとは断言でけんのやなあ」

 

 新撰組は今まで長州のみならず、様々な藩の浪士を捕縛したり斬ったりしてきた。故に何処の誰から恨まれていてもおかしくはない。

 

 尾崎の言葉に、山崎は首を横に振る。立ち上がると周囲を見渡した。

 

「せやけど……この道を通らはるっyaz避孕藥 て知っとるっちゅうことは、長州モンがやったと考えてええとちゃうか」

 

「ちゅうことは、暫定として長州ん者ん仕業て考えてよかとね」

 

 流石は裏方で動く監察方と言うべきか、状況を見ただけで直ぐに憶測がぽんぽんと立っていった。ん、と声を漏らした山崎はサクサクと雪を踏みしめ、僅かに色が変わっているところへ歩いていく。

 

 近藤はその後を着いていきながら、悔しげに顔を歪めた。

 

「鈴木君は生きているだろうか。俺を庇って銃で撃たれていたんだ」

 

「見る限り、この出血量なら太い血管はやられてへんと思います。それに普通殺しはったら仏さんは捨て置きますやろ。わざわざ連れ去ったっちゅうことは生きてはる可能性が高いでっせ。……これ、見てください」

 

 山崎は地面の一部を指さす。そこは何かが置かれたように四角く色が変わっていた。そしてそこで血痕がぴたりと止まっている。

 

「この大きさやと、かなんかで連れ去ったんやないですかね。雪が重みで圧迫されたようになってはるのと、ここから血の痕があらへん」

 

 その言葉に近藤は少しだけ表情を和らげた。そこへ黙って耳を傾けていた伊東が口を開く。

 

「無事である可能性はほとんど無いでしょうね」

 

「伊東さん……!」

 

 失意に近い声を上げる近藤を一瞥すると、伊東は話を続けた。

 

「そうでしょう。 達が新撰組と分かった上で、わざわざ道中で待ち構えるほどの周到さです。偶然だったとは思えませぬ。恐らくは捕縛して尋問をする腹積もりなのでしょうね」

 

 その発言は全くもって理にかなっている。その場にいた伊東以外の全員が閉口した。

 

「幸か不幸か、あの子は平隊士です。隊の機密なぞ知り得ません。これがどう転ぶか……」

 

 幸いとは、機密を知らぬがゆえに話す情報が無いということ、逆に不幸とは、利用価値が無いと分かれば殺されてしまう可能性が高いということを指す。 その後、山崎と尾形が周囲の旅籠の探索を行ったが、それらしき駕籠や人物を見付けることは適わなかった。

 

「……そうか。手掛かりは無かったか」

 

 深い溜息を吐くと、近藤は片手で顔を覆う。あの道中、長州入りを断られた失意により周りが見えなくなっていた。その為に刺客に襲われても尚、刀を抜くのが明らかに遅れた自覚があった。もしも気持ちを即座に切り替えて警戒しながら帰路に着いていたら、この様な事にはならなかっただろうかという自責の念が襲う。

 

 

「総司に、何と言えば……」

 

 ただでさえ、ここの所元気が無かった。可愛がっている弟分が行方知らずと知れればどれだけ落ち込むのだろうか。

 

 そこへ武田がやってくる。

 

「流石は局長でございますな。"たかが"隊士一人のために、それ程心を砕かれるとは。この武田、局長の懐の深さに感銘を受けました」

 

 猫なで声を出しながら、いつもの様に近藤を持ち上げるような発言をした。だが、近藤は気を良くするどころか、鋭い視線を向ける。「武田君、口は災いの元ですよ。……ですが、言っていることも一理あります。近藤局長、鈴木君もこの任務を無事に終えて帰京することを願っていることでしょう。ここは当初の目的に立ち返ってみるのも手かと」

 

 

 武田は伊東が自身を助けてくれたと思い込み、安堵の息を吐く。

 

「だが、それでは……」

 

 流石の近藤も伊東の言には弱いのか、気持ちが揺れる。そこへ伊東から目配せをされた山崎が現れた。

 

「俺が残って鈴木君や長州の情報を集めます。局長達は予定通りに京へ戻っとくんなはれ」

 

 監察方の中で最も信頼が厚く、仕事においても手際の良い山崎の申し出により近藤は頷くことになる。

 

 そして長州入りに対しても他の策を試してみたが尽く断られ、やがて数日後には永井らと京への帰路に着いた。