「どうやったら…惚れた女子に

「どうやったら…惚れた女子に…桜に…振り向いてもらえるのか…俺にはわからない」

 

「…」

 

真っ赤な詩はそっと目を開いた。

 

身長差がすごくあって、singapore online stock broker 目の前は信継のみぞおちあたり。

ゆっくり首を上に上げる。

ほぼ天井を見ている格好だ。

 

目が合うと、信継の目元や耳は真っ赤でーーその目は潤んでいる。

信継は腕を伸ばし、グッと詩を抱き寄せた。

 

「あ…」

 

詩の耳があたたかな信継の胸に押し付けられる。

 

詩が聞いたのは、早鐘のように脈打つ信継の心臓の音。

壊れそうなほど速いその音ーー

 

信継の心臓も、こんなに速く脈打っている。

詩はなんだか安心した。

詩のこわばっていたカラダから力が抜ける。

詩は目を閉じたーー

 

 

 

「…」

 

木の上にいた伊場は、詩の”離れ”から音もなく去る牙蔵の影を一瞬だけ見た気がした。

 

冬の弱い太陽が、山の向こうに沈んでいく。

 

「…」

 

小さなため息を噛み殺し、伊場もまた目を閉じた。「よく来てくれたわ」

 

人払いをした緋沙の部屋でーー静かに頭を下げた詩は、緋沙に手を引かれぎゅうッと抱きしめられる。

 

「…っ…緋沙様…ご心配お掛けしました」

 

あたたかくて柔らかで、いい匂いのする緋沙は、やはりどこか母を思わせる。

 

緋沙はにっこり笑顔で詩から手を離すと、詩のそばに座る。

 

「いいの。

 

それより私の兄が…ごめんなさい」

 

「…いえ!

芳輝様は…

 

多賀家は…楽しかったです」

 

詩は微笑む。

 

「親切にして頂きました。

 

ご挨拶もきちんとできないままで、申し訳なく思っていました」

 

緋沙は困ったように微笑んだ。

 

「いいの、兄にはもう会わないで。

 

挨拶はしないでいいわ。

 

ね、それより」

 

緋沙は詩をキラキラした目で見つめる。

内緒話でもするように、ひそやかに囁いた。

 

「詩姫に折り入ってお願いがあります」

 

「…私に、ですか」

 

詩は不思議そうに緋沙を見つめた。

 

お世話になっているのだから、出来ることなら、と思っているとーー

 

「信継さんと一緒に、を取ってきてほしいの」

 

「蠟梅…」

 

蠟梅は、冬に咲く。

いい匂いで、半透明に透き通る黄色い花弁はその名の通り、蠟のようで。

詩も好きな木の花だった。

 

「お正月に飾りたいの。

 

宇都山のもっともっと向こうにたくさん植えてあります。

 

泊りがけで、行ってきてくれないかしら」

 

詩は二つ返事で頷く。

 

「それは…もちろんです。

 

私でよければ…何でも致します」

 

ニコッと笑う詩に、緋沙はにっこりと微笑んだ。

 

「詩姫ならそう言ってくれると思っていたわ。

 

信継さんに段取りは伝えておきますから、お願いね」

 

「はい」

 

それから他愛ない話を少ししてーー詩は、緋沙の部屋に来た時と同じように、伊場に案内されて、”離れ”に戻っていく。

 

 

 

緋沙は詩を見送ると、ふうと息を吐いた。

 

しばらくして、音もなく緋沙の後ろに立つ影ーー

 

「…これでいいのね」

 

緋沙は振り返らないまま呟く。

 

「…」

 

牙蔵は無表情でーー

また音もなく消えたのだった。

 

 

 

「ありがとうございます、伊場さん」

 

詩は外を歩きながら笑顔で伊場を見上げる。

 

「ふふ…緋沙様にお願い事をされました。

なんだか…嬉しいです」

 

先導するため先を歩いていた伊場は振り返りほんの少し目を見開いて、それから表情を消して、詩を見下ろす。

 

「…。

 

そうですか」

 

詩は笑顔で伊場に続けて言った。

 

「何かしら、少しでも人の役に立てるって…嬉しいものなんですね」

 

「…」

 

「こんな私でも、出来ることがあるなら、本当に嬉しいです」

 

伊場はほんの少し詩から目を逸らしてまわりをぐるりと見た。

 

「…桜さん。

 

今のうちに”離れ”に戻らないと」

 

伊場は、黒装束集団からの情報収集を受けて、時間と通り道を調整していた。

安全に詩を移動させなければならなかったからだ。

 

詩は少し慌てて伊場の方へ小走りする。

 

「…っごめんなさい、急ぎます」

 

「安全な場所でまた…お聞きします」

 

「…はい!」

 

ボソッと呟く伊場に、詩は急ぎながら、またニコッと笑った。