「それでおじちゃんとおばちゃ

「それでおじちゃんとおばちゃんは全部話したん?」

 

 

総司が黙って頷くと,三津は困ったような笑顔を見せた。

 

 

「もぉ,お喋りやねんから。帰ったらお説教やな。」

 

 

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昔の事を知らない所で勝手に話されてたら。」

 

 

しかも三津にとって凄く凄く辛い事。

でも三津は静かに首を横に振った。

 

 

「それより私が毎晩魘されてたの何で沖田さんが知ってるん?」

 

 

そっちの方がびっくりだってやっぱり笑ってみせた。

それを見て総司の方が複雑な表情を浮かべた。

 

 

「みんな知ってます。三津さん毎晩悲鳴を上げるから。」

 

 

「え!?そうなん!?早よ言ってよ,全然気付かんかったし!」

 

 

嫌な夢だとは思っていたけど,毎晩見せられるその辛さが,まさか悲鳴となって口から出ていたなんて。

 

 

「それだけ辛い思いをされたんでしょ?」

 

 

だから人が斬られる事に人一倍敏感で,血を見るのが怖い。

きっと刀を振るう人が許せないはず。

 

 

「…そうやね,残される側は辛いなぁ。」

 

 

『また笑った…。』

 

 

心から笑ってない,貼り付けたような笑顔。こんなの三津じゃない。

 

 

「そんな笑顔…三津さんらしくない…。どうして無理してまで笑うんです?」

 

 

辛い時は甘えればいいのに,弱音を吐かなければ,頼ってもくれない。

 

 

「約束したから…。じゃないと怒られてまうし。」

 

 

冗談っぽく言いながら,三津は肩をすくめて見せる。

どんな時も笑顔を作る癖をつけた。

勝手に顔が笑うのだからこれが普通なんだ。

 

 

すると意を決した総司が三津へと手を伸ばした。伸びてくる手を三津は避けなかった。

何をするのだろうかと不思議そうに総司を見ていた。

 

 

「この顔はお面ですか?」

 

 

総司の両手は三津の顔を挟み,頬を揉みほぐした。

ぽかんとする顔のギリギリまで近付いた。

 

 

「全然感情がない。笑ってるふりしてるだけだ。

お面をつけて全て隠してるだけじゃないですか!

約束ってなんです?無理して笑う事ですか?

誰とそんな約束したんです?それも三津さんを苦しめてる要因の一つじゃないんですか?」

 

 

息継ぎも忘れて言いたい事を一気にぶつけた。

三津の顔を押さえる手に震えが走る。

 

 

「嫌やなぁ,無理なんてしてへんから。

沖田さんの早口が凄くてびっくりしたし。」

 

 

クスクス笑って総司の手をそっと掴んで外そうとしたが,

 

 

「そうやって話を反らすのも許しませんよ?」

 

 

逆に総司が三津の手首を取り,痛くない程度に力を入れた。

 

 

「私とも約束して下さい。無理して笑わないと。

辛い時は辛いと言って,泣きたい時には泣いて下さい。私の胸なら貸しますから…。」

 

 

真っすぐに三津の目を見て伝えるつもりだったのに,最後の方になると自分でも恥ずかしくなってきて目を伏せてしまった。

 

 

「そんな甘やかすような事言ったら土方さんに怒られますよ?

おじちゃん達の所でも散々甘えてたんやし…。

それに,沖田さんが思う程弱い子ちゃうし。」

 

 

三津はにっと笑って総司の顔を覗き込んだ。

急に顔を寄せられ,総司がのけぞり手が緩んだ隙に三津は拘束から逃れた。

 

 

「でもそう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。

もしそんな時は胸貸してね!」

 

 

じゃあ!と片手を上げて部屋からも逃げ出した。

 

 

「あ!」

 

 

まんまとはぐらかされてしまった。

四つん這いになってがっくりとうなだれた。

 

 

「何やってるんだ私は…。」

 

 

力になるどころか三津の本心さえ引き出せない。

三津を呪縛から解放してあげたかったのに。

 

 

『私がどうにかなりそうだ…。あの“ありがとう”はズルい…。』

 

 

最後の最後で本物の笑顔を見せた。

三津に触れただけでおかしくなった心臓が余計に早鐘を打つ。

 

 

のそのそ体を起こし,胡座をかいて三津に触れた両手を見つめた。

 

 

「三津さんにべったり触っちゃった…。」

 

 

三津の頬の温もりと柔らかな肌の感覚がまだある。

 

 

『やっぱり三津さんの特別なイイ人になりたいよ…。』

三津は顔だけが急激に熱くなる

三津は顔だけが急激に熱くなるのを感じ俯いたまま目を泳がせた。

 

 

 

「なっ何で斬られたんですか? 顯赫植髮 誰にやられたんです?」

 

 

 

反応に困ってあわあわしながら質問を投げかけてみたが男は黙り込んで苦笑いを浮かべた。

 

 

そのまましばしの沈黙の後,ただ苦笑いを浮かべていた男が口を開いた。

 

 

「壬生浪士に出会ってね。」

 

 

壬生浪士…。

京の町では人斬り集団として名を馳せている浪士組だ。

 

 

「いきなり斬られたんですか?」

 

 

この人も志士狩りに遭ったのか。

 

 

自分の住む町の治安の悪さに顔をしかめていると男は話を続けた。

 

 

「酒を飲み交わした帰りだったんだけど…。

彼らは私の事が相当嫌いみたいだね。だいぶしつこく追い回されたよ。危うく狩られるところだったね。」

 

 

男はさも他人事のように言ってのけ苦笑いから一転,何だか余裕の笑みまで浮かべている。

 

 

「……少し狩られてますけど?」

 

 

手当てをし終えた左腕を指差しながら込み上げてくる笑いに耐えた。

 

 

男は少し恥ずかしそうに

 

 

「…そうだね。」

 

 

と呟いて頭を掻いた。

 

 

和やかに二人で笑い合った。

 

 

「…って笑ってる場合ちゃいますよ!そんな人らに追われてて家まで帰れるんですか?」

 

 

何て暢気な人なんだ…。自分の命が危ないと言うのに…。

 

 

三津の方が頭を抱えて唸り声を上げた。

 

 

男からすれば何故見ず知らずの自分の身を案じ,世話をしてくれるのか不思議で仕方ない。

 

 

「大丈夫,彼らもねぐらに戻る頃だろう。」

 

 

心配そうな眼差しを向けてくる三津を安心させようと優しく頭を撫でてみた。

 

 

「もし見つかったら?」

 

 

不安げに三津が問うと

 

 

「逃げるのは得意だよ。」

 

 

と男は自信たっぷりに胸を張った。

 

 

『逃げ切れんかったから斬られたんじゃ……。』

 

 

なんて野暮な事は胸にしまい,頭に被さった温かみのある手の感触に目を細めた。そんな三津の肩を,聞いて聞いてとたえが揺さぶる。

 

 

「お三津ちゃんが家に帰ってる間ね,ずーっと私を“三津!”って呼びはったんやで?

事ある毎に“おい三津!”とか“三津お茶!”とか。」

 

 

「…失礼な人ですね。」

 

 

自分で帰しておいて,しかも自分よりも長く勤めてるたえの名を呼び違えただと?

 

 

腕を組み,頬を膨らませてけしからんと腹を立てた。

 

 

「お三津ちゃん,そうやなくて…。」

 

 

たえは苦笑して首を横に振った。

 

 

「それだけ間違えるってのはずっとお三津ちゃんの事考えてたからやと思わへん?

きっとお三津ちゃんで頭の中がいっぱいやったんちゃう?」

 

 

 

 

“君の事しか頭にないんだ。”

 

 

 

桂に言われた言葉がふっとよぎった。

それだけで体が熱を帯びる。

にやけそうになるのを堪えて,両手で頬を押さえた。

 

 

「あ,まだこんな所に居やがったか。」

 

 

「噂をすれば…。」

 

 

たえはくすっと笑って肘で三津をつついた。

 

 

「噂?」

 

 

土方さんは眉間にシワを刻んで三津を睨みつけた。

 

 

「何でもありません!医者なら明日必ず行きますから!」

 

 

『あぁ駄目だ…。桂さんを思い出したら顔がにやける…。

でもアカンアカン,知られる訳にはいかへん!』

 

 

三津は両手で顔を押さえて首をふるふる振った。

 

 

「やっぱ熱あんじゃねぇか?」

 

 

土方の手が三津の額に触れる。

 

 

「熱はねぇか…。だが,油断すんじゃねぇぞ。しっかり体温めやがれ。」

 

 

 

“しっかり体温めなさい。”

 

 

 

どくん…と心臓が脈打つ。

土方の言葉にさえ桂を重ねてしまう。

 

 

「あ…。あの大丈夫ですから!仕事に支障はないようにしますから!」

 

 

相手は土方なのに目が見れない。

三津は頬を赤らめて足早に逃げ出した。

 

 

「…何だあいつ。」

 

 

「さぁ?あ,お茶飲みたかったんちゃいます?お三津ちゃんの淹れたやつ。」

 

 

棘のある言い方に虫の居所が悪くなった。

完全にこの三日間の無礼を根に持たれてしまった。

 

 

「さっきのは照れてるんちゃいますか?

お三津ちゃんも十八やし,男の人を意識してもおかしい事ないと思いますけど。」

 

 

確かに三津の動揺っぷりは変だと思った。

今まで顔を寄せようが押し倒そうが全く動じなかったのに。

 

 

『体調不良でも,頭がおかしくなった訳でもねぇのか…。』

 

 

あの三津が,恥じらいを覚えた。

残った本能は我が儘で

残った本能は我が儘で,今すぐ振り返って彼の顔を見たいと言う。早く振り向けと急かす。

 

 

でもどんな顔して振り向けばいい?何を話せばいい?

 

 

新選組に居るって聞いて驚いたよ。」

 

 

三津はぎくりとした。

優しい声の裏にある感情が分からなかった。

 

 

「…ごめんなさい。」

 

 

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三津は口を噤んだ。どうして?と言われても,そうとしか言いようが無かった。

 

 

「君は君の正しいと思う選択をして新選組に行った。そこで私の情報を彼らに密告したりはしてないんだろ?

もしそうだったら,彼らに捕まって屯所で再会してただろうしね。」

 

 

桂はくすりと笑った。

そんな再会のしかたならまっぴら御免だよ,って。

 

 

「彼らに私の事を話さなかったように,私も彼らの情報を君から聞き出すつもりは全くないよ。

君に求めているのはそんなモノじゃない。」自分を抱き締める腕に,暴れまくる鼓動が伝わってるかもしれない。

 

 

桂の言葉が体に響く度に心臓の音が激しさを増す。

だけど,嬉しくて仕方ない。

 

 

会いたいと思ってくれていた。

探してくれていた。

三津って名前を呼んでくれた。

 

 

「お…怒ってません?桂さんの敵の女中なんかやってるんですよ?」

 

 

嬉しいけど,手放しに喜んでいいものかとも思ってしまう。

嫌われたくないが故の不安。

 

 

「彼らは私の敵でも三津は違う。

でも土方歳三の女が君だと噂で聞いた時は少々腹が立ったね。」

 

 

土方歳三に対して。

三津に出逢ったのは自分の方が先だと言うのに,易々と三津を屯所に連れて行った。

しかも自分のモノにしたとなれば黙っちゃいられない。

 

 

「すみません…。」

 

 

でも誤解なんです。

言い訳したいのに言葉が続かない。

 

 

『やっぱり怒ってはった…。』

 

 

そう思ったら息をするのも苦しいぐらいで,三津は情けなく眉を垂れ下げて俯いた。

 

 

「腹が立ったのは三津に対してじゃないよ。

それに事実は違ったじゃないか。」

 

 

幾松から報告を受けた時は年甲斐もなく喜んだ。

もちろん心の中でだけ。顔はいつものようにすましていた。

 

 

「じゃあ何で腹が立ったんですか?それに何で幾松さんに壬生まで来させたんです?」

 

 

「彼が三津を独占してると思うと落ち着いていられなくてね。自分の目と耳で真意を確かめたかったけど,幾松に止められてしまったよ。

私が行くときかなくてね,だから彼女に任せたんだ。」

 

 

三津には桂が困ったように笑ってるのが,背中を向けていても分かった。

 

 

「そりゃ止められますよ…。」

 

 

そんな噂の真意を確かめる為に桂を壬生に出向かせるなんて事があっていい訳ない。

 

 

「幾松さんに心配かけちゃ駄目ですよ…。今もこんな事してる場合じゃ…。」

 

 

言い終わる前に三津の視界が変わった。目の前には桂の顔。

 

 

肩は左腕に抱かれたまま,右手が顎を固定して,唇には柔らかく温かい感触があった。

 

 

唇を離すと桂は両手で三津の顔を包んだ。

穏やかな瞳は以前と変わらず,あの時のままだ。

 

 

「私が三津に求めるモノは三津自身だ。」

 

 

三津の額に口付けを落とした。熱を帯びた三津の体は再び桂の腕の中。

 

 

「い…言ってる意味が分かりません…。」

 

 

いや,本当は分かる。

分かっているけど,素直になれない。「誰か見てるかもしれませんから!」

 

 

人の話し声や足にやたらと敏感になる。

まともに桂を見れなくて,目を伏せて桂の胸を押した。

 

 

「じゃあこれならいい?」

 

 

三津の落とした傘を拾い,それで姿を隠した。

片手は三津の腰に回したまま,離す気はない。

 

 

「駄目です!私は新選組の女中で土方さんの小姓なんです。

私の近くにいれば,桂さんは危険なんですよ?」

 

 

誰が見てるとかそんな小さい事はどうでもいい。

桂の命が危険に晒されてしまう方が問題。

 

 

『近くに居る人が死ぬのは嫌や…。』

 

 

それが土方や沖田の手によってなされてしまったら,きっと耐えられない。

 

 

「桂さんには幾松さんが居てはるやないですか。

こんな子供をからかうやなんて酷いです。

お願いですから離して下さい…お願いします…。」

「好きな男と一緒なら死んだ方がマシか?

「好きな男と一緒なら死んだ方がマシか?それで幸せなのか?」

 

 

『何かの為に命をかけるならまだしも,ただ好きな奴を追って死ぬなんざ単なる犬死にじゃねぇか。

女ってのは浅はかな生き物だな。何かにすがりつかないと生きていけないってのか。』

 

 

土方は三津の言葉を鼻で笑うと,三津は視線を落として呟いた。

 

 

「好きな人に置いて逝かれる方が苦しい…。会われへんし触れられもせんのに,忘れる事も出来へん。」

 

 

新平に会いたい気持ちが湧き上がる。

もう一度触れたい,

https://ventsmagazine.com/2023/12/13/navigating-menstrual-pain-practical-tips-for-a-comfortable-cycle あの手で触れて欲しい。

声が聞きたい。また名前を呼んで欲しい。

 

 

「守られたはずやのに…こんなに苦しい思いをするなら私だって一緒に死にたかった…。」

 

 

守りたかったのは二人の時間。そこに一人残されたって仕方ない。

心だけがずっと痛い。

 

 

『今…何て言った?』

 

 

一緒に死にたかった?誰が,誰と?

 

 

三津の肩を掴もうと手を伸ばしたと同時に,三津はすり抜けていった。

急に掴みどころのない女になってしまった。三津は覚束ない足取りで,酔いつぶれた隊士たちに用意した薄手の布団を掛けて回った。

 

 

お猪口二杯で千鳥足。

あっちこっちに転がった隊士の足に躓いては派手に転んだ。

 

 

「痛い…。」

 

 

痛い思いをしたのにみんなに指を差されて笑われた。

ほんのり赤く染まった顔で何がおかしいんだと口を尖らす。

 

 

「口調がちょっと土方さんに似てきたんじゃねぇか?」

 

 

永倉が拗ねた顔も可愛いぞなんて囁きながら三津の頭をよしよしと撫でた。

 

 

尖らせた口はすぐに緩み嬉しそうに頭を差し出した。

 

 

「土方さんに似てきたなんて冗談じゃないです。お酒のせいですね?」

 

 

総司はこれ以上永倉に触らせてなるものかと三津の頭から図々しいその手を払いのけた。

 

 

「土方さんですね?三津さんにお酒呑ませたの。」

 

 

広間の隅で片膝を立てて,その様子を愉しげに見ていた土方を一瞥した。

 

 

頭を撫でてくれる手が無くなり三津は顔を上げて小首を傾げた。

正面に総司がいるのを確認して今度は総司に頭を差し出した。

 

 

「あの…三津さん?」

 

 

これは撫でてくれと言う事か?

三津を犬のように扱うなんて気が引ける。でも撫でたい。

申し訳ない気がしながらも,そっと撫でてみた。

 

 

すると三津は満足げに目を細めた。

 

 

『酔ってるとは言えこの顔は反則ですよ。』

 

 

甘えたような顔は初めて見る。

どうせなら二人きりの時に見たかった。

強い独占欲が総司の心を支配した。

 

 

「お三津,俺も触ってやるよ。」

 

 

原田が下心丸出しの笑みと手つきで三津に近寄ろうとするもんだから総司は殺気を身に纏う。

 

 

『楽しそうなこった。』

 

 

もっと派手に暴れちまえと密かに野次を飛ばす土方の隣りに山南が腰を下ろした。

 

 

「思ったより取り乱さなかったね。気丈に振る舞ってただけかな?」

 

 

「ガキに注意が逸れたからな。」

 

 

勇之助の怪我は想定外だった。芹沢が逃げ込んだ部屋に居たとは。

顔を見られてないのがせめてもの救いだった。

 

 

更に為三郎が三津を引っ張って来たのも予期してなかったが,そのお陰で三津の見えなかった部分が垣間見えた。

 

 

「なぁ,山南さん。あんたの言う通りあいつは過去にあった何かでっかいモンを隠してやがる。」

 

 

今,目の前に居る三津は顔を赤らめ無邪気に笑っている。

 

 

『そうやって笑ってろ。分かり易くなきゃお前じゃねぇよ。

難しい女になんてなってくれるな。』三津の目の前で繰り広げられているのは朝稽古。

…のはずだったのだがいつもと趣旨が違う。

一本先取制の試合で勝者には褒美があると言う。

「そうですよね!毎日皆さん

「そうですよね!毎日皆さん命懸けですもん。」

 

 

努めて明るく振る舞うも声は震えて細くなる。

 

 

『馬鹿正直な奴め。』

 

 

気を紛らわそうと鼻歌を歌うが布団を整える手はガタガタ震えている。

 

 

「てめぇは町で死体が転がってるのや晒し首には遭わなかったか。」

 

 

今ではもう日常茶飯事の光景を思い浮かべて問う。老爹鞋香港 俺らも結構働いてんだと口角を上げて。

 

 

『そんな自慢げな顔で言う話でもないでしょう…。綺麗な顔して…。』

 

 

整った顔立ちから出る物騒な言葉がより美しさを引き立ててるのか。

土方と見つめ合ったまましばし硬直した。

 

 

「で?どうなんだ。」

 

 

答えを急かされ三津は苦笑いで小首を傾げた。

 

 

「それに会いたくないから出歩くの控えてて…。」

 

 

目の前の綺麗な顔がみるみる歪んでいく。

眉間のシワが深くなる度,三津は後退りをする。なるべく障子に向かって。「なるほど,それで道が分からねえってか?」

 

 

じわりじわりと土方が三津に迫る。

 

 

「道も覚えねぇで甘味屋で甘えてたって訳か。その甘えた考えも根性と一緒に叩き直してやる。何があっても,何からも逃げる事は許さねぇ。」

 

 

鋭い目の奥を光らせ,口角をつり上げて,三津の胸ぐらを掴んだ。

三津の背後にはもう壁しかない。

 

 

「そ…それには事情が…。」

 

 

聞いてもらえないとは分かっているが一応足掻いてみる。

すると一瞬で視界は土方の顔だけになった。

 

 

「覚悟しやがれ。」

 

 

はいとしか言わせない。

醸し出す空気がそうたたみかける。

三津はこくこくと激しく上下に頭を揺らした。

でなければで逃げ出す前に命は無い。

 

 

――それから布団に潜り込んだけど三津はなかなか寝付けずにいた。

うとうとしては目が覚める。

 

 

『早く寝たい…。』

 

 

何度も寝返りを打って落ち着く向きを探した。

けど鼓動の落ち着きがない。

 

 

思い出してしまった。

町で見かけた死体や晒し首を。

 

 

『嫌でも見て来たもん…。』

 

 

町で幾度となくそれらを見て来た。

それが全て新平に見えてしまって何度その場で倒れかけた事か。

 

 

『神経質になり過ぎやったんや。早く寝ないと明日に支障が出ちゃう。』

 

 

三津は布団を深くかぶって無理やり目を閉じた。

 

 

『今日は珍しくよく動きやがるな。』

 

 

三津が寝返りを打つ度に聞こえる布団の擦れる音が耳障りで土方も寝付け無かった。

 

 

『いつもは死んだように寝る癖に。やけに動くじゃねぇか。』

 

 

それとも今日の自分が過敏になっているのだろうか。

いつもよりか目も冴えている。

 

 

「……おい。」

 

 

眠くなるまで話し相手でもさせるか。

衝立に向かって声をかけて返事を待つが部屋は静寂に包まれる。

 

 

「寝たのか?」

 

 

狸寝入りなら承知しねぇぞと,わざわざ体を起こして反対側を覗き込んだ。

 

 

丸まった布団は規則正しく上下していた。

どうやら眠りに就いたらしい。

 

 

『人の眠りを妨げといて先に寝るとはいい度胸だな。』

 

 

こっちは眠れる気がしないんだ。一人安らかに寝かせてたまるか。

土方は深く被った布団に手をかけて勢いよく捲ろうとした時,

 

 

「んー…。」

 

 

悩ましげな声で身を捩る動きに不覚にも土方の鼓動は跳ね上がった。

 

 

勢いよく捲るのは止めて徐々に顔が見える位置まで布団をずらした。

 

 

その寝顔に息をのんだ。

 

 

 

 

 

 

――――泣いてる…?

 

 

小さく丸まって眠る横に腰を下ろして胡座をかいた。

暗闇に目を凝らして横顔を見れば頬に涙の筋が走っていた。

 

 

握り締められてより小さくなった手も小刻みに揺れている。

 

 

「怖い夢でも見てんのか?」

 

 

そっと頭に手を被せ,夢の中にいる三津に話しかけてみる。

太陽の下で見る姿とはまるで別人。

 

 

この暗闇に溶けてしまいそうな線の細さ。

止まってしまうかもと思わせる息づかい。

何も語らない口元。

震えたままの手。

 

 

 

 

 

―――か弱い。

『本当に置いてかれると思ってるの?

『本当に置いてかれると思ってるの?

馬鹿な子だな,三津が迷子になったって誰も得しないし。

ま,そこが憎めないんだけど。』

 

 

三津に分からないように頬を緩めて河原を後にした。以前と同じ道を通るのでは面白くない,どうせなら違う道を通って三津を混乱させてやろう。

吉田の悪巧みが冴える。

 

 

https://paintedbrain.org/blog/unraveling-the-mystery-could-frequent-pain-every-month-be-endometriosis

少し遠回りをすれば一緒にいる時間も長くなる,純粋に二人でいたいとも思いながら甘味屋を目指した。

 

 

「前と道違うんちゃいます?」

 

 

それに気付いた三津は吉田の思惑通り不安げにきょろきょろと目を動かして落ち着かない。

 

 

だが急に三津は足を止めた。

着物を引っ張られた吉田の足も止まる。

 

 

「何?」

 

 

三津は寂しそうな目で真っすぐ続く脇道を見つめている。

 

 

「この道は知ってる,通ったことある。」

 

 

道を見つめるその目から誰と歩いて知った道なのか吉田はすぐに分かった。

 

 

「彼と歩いたんだ?」

 

 

三津が見つめる先に顔も知らない男と仲睦まじく寄り添い歩く姿を見てしまった。

 

 

治まっていたはずの嫉妬心が動き出す。

 

 

「そんな顔になるなら見なければいいだろ。」

 

 

目に浮かんだ光景を消し去りたくて三津を引っ張り,歩く速度も上げた。

 

 

『思い出して泣くぐらいなら忘れてしまえ。

その穴ぐらい埋めてやる。』

 

 

心の中では言えるのに言葉になるのは突き放すだけの冷たいものばかり。

 

 

ちらっと右斜め後ろを見てみると三津は完全に俯いてしまっていた。

 

 

「…まだ彼が一番なんだ。」

 

 

すると三津はうんと頷いた。

分かりきってた答えなのに吉田の嫉妬心が顔を出した。

 

 

「じゃあ聞くけど,会えるけど色んな女の人の所に通える桂さんと,会えないし触れられないけど誰のものにもならない死んだ彼だったらどっちがいいの?」

 

 

三津は大きく目を見開いて顔を上げた。

 

 

『違う…。

こんな言い方したいんじゃない。』

 

 

瞳を揺らしながら見つめてくる三津に吉田の胸は苦しくなる。

 

 

「何でそんな言い方するの?桂さんも新ちゃんも私には大事な人やのに…。」

 

 

勿論吉田だって大事な人に入ってる。

なのにそんな言い方をされて三津は激しく動揺した。

 

 

着物を掴んでいた手も力無くするりと落ちていった。

 

 

吉田もこうなると分かっていながら素直になれず,

 

 

「三津には俺の気持ちなんて分からないだろ。」

 

 

苛立ちをぶつけるような言いぐさをしてしまった。

 

 

『そうじゃないだろ,ごめんって言えよ。』

 

 

吉田の眉尻も下がる。

言葉は喉の奥で止まったままだ。

 

 

三津は軽く唇を噛むと,目を伏せて吉田の横を走り抜けた。あの日以来,吉田が甘味屋に現れなくなった。

 

 

『もし来たら何も無かったように笑って出迎えよう。』

 

 

そう決めていた三津だったが,決意も虚しく全く音沙汰は無い。

 

 

それでも日常に変わりは無く,今日も常連さん達で店内は賑わっていた。

 

 

その輪の中に三津も混じり,世間話に花を咲かせていた。

 

 

「そうや,昨日そこの旅籠で長州のもん匿ってた言うて主人と女将が新選組に捕まったらしいで。」

 

 

大人たちが恐い恐いと体を震わせながら顔をしかめたが三津は一人きょとんとしてしまった。

新選組?初めて聞いたな。』

 

 

政に疎いから口は挟まず話の続きに耳を傾ける。

 

 

「長州の人らを追い出して京にも入れんようにしたらしいやないの。」

 

 

「え?何で?」

 

 

そこは流石に黙ってなかった。

理解が追いつかない。

 

 

『待って?長州が追い出されたなら吉田さんと桂さんは?』

 

 

血の気が引いていくのが分かる。

とにかく事情を把握したい。

長州が追い出された経緯の説明を大人たちに求めた。

吉田が来なくなった理由はそこにあるかもしれない

 

 

「何や御所で薩摩と会津を相手にもめたらしいで。」

「馬子にも衣装って言わないん

「馬子にも衣装って言わないんですか?」

 

 

三津は袖を広げて見せながら真剣な顔をした。

 

 

「そう言って欲しかったの?期待外れでごめん。今からでも言ってあげるよ。」

 

 

吉田が喉を鳴らしながら三津の期待に応えようとすると,三津は慌てて首を横に振った。

 

 

「そんな事言わないって,了解肺癌眾多成因,盡力預防減風險 だって似合ってる。」

 

 

遠くから見たら本当に三津だって分からなかった。

 

 

『確かにこう言うのを馬子にも衣装って言うんだろうけど。』

 

 

吉田は不覚にも見惚れてしまったんだ。

だから冗談でも言うまいと密かに決めていた。

 

 

『それをわざわざ自分から言ってくるとはね。』

 

 

真剣な顔をしていた三津は口を一文字に結び耳まで赤く染めていた。

 

 

吉田はただ似合ってると言っただけ。

可愛いだの綺麗だの美人だとか女が喜ぶ言葉は何一つ口にはしてない。

 

 

それでも三津は似合ってると言われたのが嬉しくて着物を見てささやかな笑みを浮かべた。

 

 

「ところで三津は食欲は戻ったの?

前よりやつれたってみんな心配してた。」

 

 

吉田は三津を散歩に連れ出した目的を果たすべくさり気なく話題を変えた。

 

 

「やつれた?

今はちゃんと食べてますから。」

 

 

そう言えばしばらくお粥ばっかりの生活だったなと懐かしむように遠くを見つめた。

 

 

確かに前よりは頬も痩けたかもと両頬を手のひらで包み込んだ。

 

 

「美味しい物食べてもっと元気になりなよ。」

 

 

そう言って三津の頭に手を乗せれば,

 

 

「河原で一緒に食べたみたらしめっちゃ美味しかった!」

 

 

目をきらきらと輝かせて見上げてきた。

 

 

「うちのみたらしが美味しいのは当たり前やけどあの時食べたのが一番美味しく感じた!」

 

 

『それは俺と一緒だったから?』

 

 

自惚れた冗談を思いついた時,

 

 

「稔麿?」

 

 

落ち着いた声に呼び止められた。吉田はこの声の相手を待っていた。

 

 

その為にも三津を連れ出したのだから。

 

 

「驚いた,三津さんと一緒だなんて。」

 

 

吉田の陰にいた三津を覗き込んだのは桂だった。

 

 

「桂さん!……稔麿?」

 

 

三津の目が丸くなり忙しく動き回る。

 

 

「久しぶりだね,それにしても見違えた。」

 

 

桂は感嘆の声を漏らし,もしかしたら自分の贈った簪を挿してくれてるかなと三津をじっくり見ようとする。

 

 

それを阻むように吉田は三津の前に立って背中に隠した。

 

 

そのせいで三津は桂と吉田の表情を窺い知る事が出来ない。

 

 

「これから幾松さんの所へ?」

 

 

吉田は悪びれた様子も見せずに不敵な笑みを桂に向ける。

 

 

桂は否定も肯定もせず涼しげな目元でこちらも笑みを浮かべて吉田の挑戦的な目を見据える。

 

 

「幾松?」

 

 

蚊帳の外にされた三津は控え目に吉田の後ろから二人を様子見た。

 

 

『何の話だろ。

幾松さんて…誰やろ。』

 

 

「三津さんあれから彼とは話し合えたのかな?」

 

 

 

吉田の背後からひょっこり出て来た顔に合わせて桂も腰を落とした。

 

 

“幾松”の事には触れずに済まそうとしたのだけれど,それを簡単にさせないのが三津の前に立ちはだかる曲者。

 

 

「嫌だな桂さん,三津は今私といるんですよ?

なのに他の男の話を出すなんて不粋じゃありませんか。

それより幾松さんがお待ちかねでは?」

 

 

桂は参ったなと苦笑して自分を見つめてくる丸い瞳をじっと見つめた。

 

 

「また今度ゆっくり話そうね。」

 

 

手を伸ばしてその頬に触れたかったけれど,それは叶わず今回は退くことにした。

 

 

三津はゆっくり頷いて去って行く桂を見ているしかなかった。

 

 

「びっくりした…。

吉田さん長州の人やったんや。」

 

 

「捜してる壬生狼のお兄さんには内緒だよ。」

 

 

吉田は悪戯っぽく笑って三津の肩を軽く叩いた。

 

 

流石にそれはしないよと苦笑いで頬を掻いた。

桂と初めて会った夜にも約束したのを思い出した。

 

 

「桂さんと仲悪いの?」

 

 

表情は分からなかったが吉田の言葉に刺々しさを感じていた。

 

 

「悪くは無いよ。

と言うより桂さんは立場的にも上だし。

親しいとか親しくないの話ではないね。」

 

 

『偉い人なんだ桂さん。そう言えば私何も知らないや。』

 

 

幾松の名を思い出すと何だか胸の奥が疼く。

 

 

 

『桂さんの特別な人なんかな…幾松さん。』