があってしまった。

があってしまった。

 

 にらまれるかと思いきや、かれのがうるうるしはじめた。

 

 うおっ……。

 

 かれをイジメてる感がぱねぇ。

 

 それ以上に、經痛 かれは父親がわりの相棒、つまりお父さん犬をこの場に召喚するかもしれない。

 

 そうなったら、ヤバしはおれのほうだ。

 

「ぽち、ごめ……」

「駆逐してやる」

「はい?」

 

 かれは、指先で涙をぬぐった。それから、謝罪しようとしたおれをにらみつけたままつぶやいた。

 

「は、この世から駆逐してやる」

 

 いや、ちょっとまてよ。

 

 駆逐?

 

 それは、もしかしてあの漫画か?巨人がでてきて戦う、アニメ化はもちろん実写化もされたあの漫画のことなのか?

 

 だとすれば、俊春。フランス人たちもおれも、きみの母親をきみの眼前で喰ったことはないぞ。

 

 それに、おれたちはそこまででかくないぞ。

 

 って結局、またしても漫画のパクリってわけか?

 

 ああ、くそっ!

 

 俊春のせいで、「進撃○巨人」のつづきまで気になってきた。

 

 現代よりこの時代のほうが、おれにとってはよほど性にあっている。だから、めっちゃ居心地がいい。

 

 よい仲間に恵まれた。それ以上に、すばらしくてやさしくて超絶理解のある上司のなかの上司たる副長の側にいられることが、しあわせ以外のなにものでもない。

 

 しかも、いまは伊庭もいっしょである。いや、ちがう。尊敬する伊庭のそばで、さまざまなことを学ぶことができる。

 

 歴史上の有名人にもいっぱい会えたし、いろんな経験もできた。

 

 悲しくてつらすぎる経験もあったけど、おれにとってはそのどれもが貴重でためになる経験ばかりである。

 

 だがしかし、そんなすばらしい環境下であっても、漫画のつづきみたさにはかなわないかもしれない。

 

 ぜったいにつづきをみたい漫画のなかには、もしかすると完結したものもあるかもしれない。

 

 だめだ……。

 

 おれよ、漫画のことは忘れろ。みたいと思うからみたい熱に火がついてしまうんだ。

 

 そうだ。つづきは、自分でかんがえればいい。自分で創作するんだ。自分が納得いくようなラストにすればいい。

 

「ぼくは、『人類最強○男』だ」

 

 おれが漫画熱をさまそうとしている傍らで、俊春はまだ「進撃○巨人」ごっこをつづけている。しかも、『リヴ○イ兵長』役に徹しているようだ。

 

 納得の配役だ。ってか、マジ適役じゃないか。まんまだ、まんま。これ以上の適役はないっていいきれる。

 

 かれだったら、あっという間に巨人を駆逐してしまえる。だから、単行本一冊分のストーリーも必要ない。

 

 それこそ、冒頭の衝撃的なシーンではじまったかと思うと、つぎの回にはすべてのがついている。

 

 伏線をはる暇もない。

 

 俊春なら、そんな勢いでストーリーを完結してしまうだろう。 脳内で、俊春に「リヴ〇イ兵長」の恰好をさせてみた。

 

 めっちゃ似合うじゃないか。

 

 三白眼のイケメンではなく、かっこかわいいにはなってしまうが、最高最強の兵長になることにかわりはない。

を削ってやる」

「いや、ぽち。それはフツーにアウトだろう。巨人じゃないんだ。にそんなことをやったら、フツーに死んじゃうし」

 

 物騒どころの騒ぎじゃない。漫画のまんま『スナ〇プブレード』で項を削ってしまったら、サイコパス的殺人事件に発展してしまう。

 

「頭にきているのはわかったから、そろそろをつけろ。みなさん、ド派手な展開を愉しみにしているんだからな」

 

 俊冬が注意した。

 とはいえ、副長似のイケメンに浮かぶニヤニヤ笑いは、だれよりも自分が愉しみにしていることをあらわしている。

 

「利三郎、覚えておくといい。これが「Fuck you!」のフランス語バージョンだ」

 

 俊春は、この会場内のどこかでみているであろう野村に告げるなり、フランス軍士官たちに向き直った。

 

 その瞬間である。

 

「Va te faire enculer!」

 

 かれはドスをきかせて怒鳴ると同時に、拳を突き上げた。

 

『ヴァ・トゥ・フェ-ル・アンキュレ』

 

 そんな発音だった。

 

 すかさず俊冬が説明してくれた。

 

 いまのが、英語の「Fuck you!」に相当するということを。

 

 英語圏では、フレーズとともに中指を突き立てるジェスチャーをする。フランスでは、中指ではなく拳を突き上げるジェスチャーなのだとか。

 

 やられたフランス軍士官たちは、すぐさま激昂した。

 

 まぁ、当然のことだけど。

 

 って思う間もなく、一番手前にいるレスラー並みのガタイをしている士官が殴りかかってきた。ガタイのわりには、すばやくていい動きをする。

 

 動きだけでなく気合の咆哮を発しないところなどは、よほど喧嘩慣れしているにちがいない。

 

『バシッ!』

 

 会場内は静まり返っているわけではない。ざわざわというざわめきのなか、拳があたった音がやけにおおきく響き渡った。

 

 ざわめきがどよめきにかわったのは、その直後である。

 

 士官が繰りだしてきた拳を、俊春は三本しか指のない掌でしっかりうけとめているのだ。いや、受け止めているだけではない。

 三本の指が、士官の拳をがっしり握っている。

 

 俊春がフランス語でなにかいうと、士官は自分のパンチを受け止められた驚きがさめやらぬままの