でなにかいい返した。
「折られるのは指がいいか腕がいいか、選ばせてやろう」
俊冬がトランスレイトしてくれた。
「なんだと、子宮內膜異位症 クソガキ」
つづいて、かれは士官のフランス語もトランスレイトしてくれる。
俊春のかっこかわいい顔に、凄みのある笑みが浮かんだ。同時に、またなにかいった。
「こちらが誠心誠意ことをわけて詫びをいれたのに、それが受け入れられず、しかも侮辱された。ぼくはではないが、ここにいるすべてのの心は理解している。無礼にはそれ相応の手段で対応させていただく」
俊冬のトランスレイトがおわったと同時に、俊春は三本しか指のない掌を軽く振った。
『ドシンッ!』
士官の巨体が回転し、かれは背中から床に叩きつけられた。
この場にいる全員が、いまや声もなく注目している。
士官の口からうめき声がもれた。
そのときやっと、ほかの士官がわれに返ったらしい。
なにやら叫びながら、同時に俊春に殴りかかったのである。
『ちっちゃいの』とか『おチビさん』とか『チビ助』とか、こういうシーンにぴったりな言葉を発したにちがいない。
刹那、俊春ににらまれたような気がしたが、それはおれの気のせいだろう。
合計四名である。そのなかには、ニコールもまじっている。
部下にやらせるんじゃなく、自分もやるんだ。
そこんところは意外に思った。
もっとも、かれはシンプルにだれかをボコすのが大好きってだけなのかもしれないが。
あっという間であった。
例のごとく、おれの動体視力では追いきれない。ゆえに、推測をまじえた実況しかできない。
俊春は、わずかにはやく繰りだされてきたパンチを頭部をわずかにかたむけてかわした。そのときにはすでに、かれの脚がその士官の脚を軽く払っている。脚を払われた士官は、まるでトラックに跳ね飛ばされたかのようにふっ飛んだ。そして、背中から床にたたきつけられた。
そのあたりに立っていた見物人たちは、あわてて飛びのかなければならなかった。
つぎは、左右から同時に殴りかかってきている。
っていうか、ソッコーで即興の連携プレイをするところなど、さっきの巨漢士官だけでなく、かれら全員が喧嘩慣れしているとしか思いようもない。
もしかして、かれらは常日頃から殴り合いの喧嘩をしているのだろうか。
そういうバイオレンスで、あらゆる欲求を解消しているとでもいうのか。 そんなかれらの日常は兎も角、俊春は左右からの同時攻撃をかっこかわいい そのとき、副長のうしろにある窓ガラスになにかがあたった音がした。
刹那、副長が飛び上がった。
いまの副長の反応は、先日の熊事件のトラウマによるものにちがいない。
『キキーッ!』
めっちゃあかん系の音が、室内に響きはじめた。
爪でガラスをひっかく、あの身の毛もよだつ音である。
まあ、黒板をひっかく音よりかはマシかもしれないが。
ってか、まさかまた熊?
だとすれば、はどんだけ熊の訪問がおおいんだ。ってか、なにゆえピンポイントで副長の部屋を選択するんだ?
「おっと、ごめんごめん」
そのとき、副長の補佐官然と執務机の横で控えている俊冬が、窓ガラスにち近寄った。
みな、熊事件のことはきいている。
みんなで固唾をのんでみまもるなか、俊冬は勢いよく窓ガラスを開けた。
「兼定兄さん、おまたせ」
かれの一言で、全員がいっせいに息を吐きだした。
相棒が、窓を爪でひっかいていたんだ。
「副長、いれていいですか?」
「ああ、たま。無論だ」
「いや、ちょっとまってください」
俊冬の問いに応じた副長の答えにかぶせ、思わずダメだしをしてしまった。
「今宵は雨は降っていませんが、地面はぬかるんでいます。せっかく大きくてきれいな部屋をいただいたというのに、いきなりドロドロにしてしまうのはいかがなものかと」
「きみ、いいかい?きみにとって兼定兄さんはしょせん相棒かもしれない。だけど、かれはおれたちにとっては兄みたいなものだ。それを、ドロドロにしてしまうから、このクッソ寒いなか外で凍え死ねだなんて。って、どれだけ冷たい生き物なんだろう」
俊冬が涙ながらに反論してきた。
「主計。おまえ、ひどいやつだな」
「誠にひどいやつだ」
「信じられぬ」
「マジで塩対応すぎだな」
島田をかわきりに、みんながディスりだした。
最後の野村にいたっては、『おまえにいわれたくないよ』って喉まででかかった。
さらに、俊春がすぐ隣で無言の圧をかけてくる。
つまり、かっこかわいいをうるうるさせているのだ。
ついさっきフランス軍士官たちを「駆逐してやった」同一人物とは、とても思えない。
ってか、このままではおれも『駆逐してやる』宣言されるかもしれない。
思わず尻を反対側にずらし、俊春と距離を置いてしまった。
「なんだい?」
すると、俊春とは反対側に座っている伊庭にぶつかった。
「あ、すみません」
にこやかに、あ、これは愛想笑いというやつだが、笑顔で伊庭に謝罪した。
「きみ、ぼくが