入江は軽口を叩くよ

入江は軽口を叩くように言うが、久坂は項垂れたまま一言も発しなかった。いや、出来なかったのである。

その心中では悔しさと己の不甲斐なさで綯い交ぜになっていた。

 

 

 

火の爆ぜる音や木々のざわめきだけが周囲に響く。

やがて、botox香港 久坂がぽつりと口を開いた。

 

 

「…俺が、医者坊主やけぇ。説き伏せることすらままならんかった。世知辛いのう…」

 

「医者坊主じゃと、そねぇに言われたんか?」

 

入江は久坂の横に座ると、その肩に触れる。

それは久坂が一番言われたくない言葉だった。確かに医者の倅として産まれたが、その身は既に国の為に奔走する志士である。

 

出自を引き合いに馬鹿にされるのはどうしても堪えた。

 

 

「ああ。医者坊主なぞに戦が分かってたまるか、と言われた。…悔しいのう、悔しいのう…ッ」

 

久坂は肩を震わせる。

ぽたり、ぽたりと目から溢れた涙が地面に紋を作っていった。

 

 

「……あのジジイ!」

 

入江は叫ぶようにそう言うと、刀を手に立ち上がろうとする。しかしその腕を久坂が掴んだ。

 

「離せ、久坂!」

 

「…ええんじゃ。君が悪者になる必要は無い。俺は、池田屋で死んだ栄太の事を言われて動揺を見せてしもうた。その時点で俺の負けじゃった」

 

 

その悲哀に満ちた声を聞き、入江は顔を歪め座り直す。

久坂の気持ちは痛い程に伝わってきた。

 

恐らく自分ならば怒りに任せて暴れてしまっていたかもしれない。それをしなかった久坂は大した者だと入江は思った。

 

 

「…栄太なら、こねぇな時どうしたんじゃろうか。説き伏せるんは俺より彼奴の方が上手いけぇ」

 

久坂はそう言うと、懐かしむように目を細めた。

 

 

「栄太の奴、腹が立つくらいに頭の回転が早えからのう。ほら、何時じゃったか。栄太が牛の絵を書いた時……」

 

入江も同じく昔を回想するように目を細める。、高杉が視線をそちらへ送った。

 

『ああ。よう見ちょれ』

 

今度はそれに烏帽子と木刀に棒切れを添えて描いた。

 

 

『のう、栄太郎。それは何じゃ?』

 

興味を持った山縣が近寄り、わくわくした目で吉田を見る。すると悪戯に目を細めた吉田がニヤリと笑った。

 

 

『これは君らのことじゃ。まず牛は晋作。俗事に拘らない俊才で、誰も縄で繋ぐことは出来ないけぇ。野に放たれた暴れ牛のようにのう』

 

それを聞いた高杉以外はクスクスと笑う。高杉は褒められたのか、貶されたのか分からないと言った面持ちをしていた。

 

『次に烏帽子は秀三郎。烏帽子を被らせて、大きな屋敷に座らせりゃ絵になるじゃろう』

 

『俺は美丈夫じゃからのう。よう分かっちょる、栄太は』

 

久坂は上機嫌になる。

 

『木刀は入江。晋作や秀三郎に比べりゃ劣るところもある。木刀は斬れはしないが、脅すことは出来るじゃろう』

 

『なッ!ワシは太刀になる男じゃ!見ちょれ、いつか泣かせちゃる!』

 

入江がいきり立つのを、吉田は冷静に見遣った。

 

『のう、その棒切れは何じゃ?まさか、栄太の事か?』

 

山縣はニコニコとしながらそう尋ねる。それを見た吉田は口角を上げた。

 

 

『棒切れはお前じゃ、狂介。凡庸で、何の取り柄も無かろう』

 

『ひ、酷い!僕は大器晩成する男なんじゃ』

 

 

山縣は小さな声で抗議の声を上げる。それを聞き、山縣以外の全員が笑った。それは松下村塾にて。

吉田は紙に筆で牛の絵を書いていた。

 

『それは…牛か?』

 

それに気付いた久坂、入江がその横に座る。近くに座っていた