再び、太子軍を半円に取り囲

 再び、太子軍を半円に取り囲みながら王女軍兵士の猛攻が始まった。先に述べたように陣形上の有利は王女軍に有る。今はまだ膠着状態であるが、時が立てば太子軍は順々に劣勢に追い込まれて行くであろう。太子軍本営では、押し込められて来る自軍をじりじりとした様子で太子ゴルゾーラと神官ナーザレフが見ていた。「余、自ら先陣に立たん。」 ゴルゾーラはそう言うと、床几を蹴って立ち上がった。「殿下、お待ちあれ。切り札を使います。」ゴルゾーラの袖をナーザレフが止めて言った。それから、第七師団残りの四個連隊の下に走り、連隊長達に命じた。「今こそ、神の神助を求めるべき時ぞ。兵士達に『神力召喚』を用いさせよ。」 第七師団の四個連隊長達アンドア、サンテーラ、インドル、メキーラは皆十二神将、ナーザレフの教団の配下である。教祖の指示に肯き、連隊兵士を率いて最前線へと押し出していった。

 太子軍兵士達の中を指揮下の第七師団の下に戻りつつあったクービルは前線に向かう自分の師団と行き合った。「待て、まさか『神力召喚』を使うつもりか。」 クービルは自分の配下である連隊長達に尋ねた。「そうです。神の助けを得れば、形勢一気に逆転します。」第一連隊長のアンドアが答えた。「それは止せ。あの薬は好きになれん。」 クービルの表情は苦い。「聞けません。既にナーザレフ様の指示が降りました。 アンドアはそう答えた。同じ十二神将である第七師団連隊長達には直接の指揮官であるクービルの命令より、教祖ナーザレフの命令が絶対のようだ。第七師団四個連隊はクービルを無視して最前列へ進んで行った。取り残される形となったクービルは表情を曇らせて下唇を噛んでいた。「今こそ、神の御業を皆に授けん。神力を召喚せよ。神に栄光あれ。」最前線間近になった所で、四個連隊長は兵士達の足を止めさせ口々に命じた。 兵士達は懐から手に手に白い丸薬を取り出して、口に含み飲み下していった。それはかつて十二神将バージュラがハンベエとの戦いで使用した、あの白い丸薬であった。 丸薬を飲み下した第七師団の兵士達の表情が瞬く間に変じていった。目は爛々と野獣の輝きを帯び、こめかみは流れる血の動きが見えるほどに血管が浮き上がる。 衣服の上からも胸や腕の筋肉が俄に膨れ上がったかのように見えた。どの兵士も恐ろしいほど自信満々な顔付きに変わり、狂気を帯びた全能感に満ち溢れている。「神は各々の身に宿ったぞ。恐れる者は無い。者共進めえ。」「勝利こそ神への供物。神に栄光あれ」「敵の骸こそ神への供物。神に栄光あれ。」「神は敵の血を愛でたもう。神に栄光あれ。」四個連隊長が口々に叫ぶと、配下の兵士達は猛然と最前線に躍り出て行った 手に手に盾を突き出し、剣を高々と上げて王女軍兵士に向かって行く。