目の前にやって来たロキに、モンタは何も言わずにむしゃぶりついていた

目の前にやって来たロキに、モンタは何も言わずにむしゃぶりついていた。そうして、意味不明の嗚咽を上げて体を震わせた。ロキの表情が一辺に曇り、淀んで行く。「モンタはホウゾインさんと一緒だったはずだけど。」 傍らに立つヘルデンに、ロキが問い掛けた。「一緒にいた男は殺されたよ。」ヘルデンはやり切れないと言った顔付きでロキに答える。あいつ、中々の腕前だと思ったが。」ハンベエが側にやって来ていた。「ああ、御大将。xeomin報告が有る。」 ヘルデンは、ホウゾインやモンタの身に何が起こったのか一部始終を説明した。ヘルデン達はホウゾインが殺された後に現場に到着した為、全部を見た訳では無かったが、直後付近を捜索すると一部始終を見ていた人物が見つかったのである。その供述から、殺された人物の名がホウゾインと言い、殺した人物の名がルキドと言う事も判明していたし、ホウゾインとルキドの闘いの様子も知れていた。「それで、ホウゾインは、ホウゾインの死骸はどうした?」「捨て置く訳にも行かないので、此処に運んで来てます。」ヘルデンは、自分の後ろの指し示した。丁度、五名の兵士達が担架に人を乗せて遅れて到着して来る處だった。

 兵士達はハンベエとヘルデンの姿を見ると、真っ直ぐにそちらに向かって歩いて来た。駆け出しはしなかった。担架に乗せた遺骸に気を使っているのだろう。整然とハンベエ達の前まで歩いて来た。そうして、そっと担架を下ろした。ハンベエはホウゾインのナキガラを静かな瞳で見遣る。酷い有様で、滅多斬りであった。聞けば、ルキドと言う男は既に事切れ倒れていたホウゾインに何度も剣を振るったという。ひく、ひっくと低い嗚咽の声を上げるモンタの頭を丁度胸の下辺りに抱え込みながら、ロキは息をするのも忘れていたようだが、ホウゾインの屍に一目目をやって、「こんな・・・・・・。」 こんな事ってあるかよお、と叫ぼうするのを途中で歯を食いしばって堪え、強情我慢の膨れっ面で空を睨んだ。 ハンベエはそんなロキを一瞬痛ましげな顔で見たが、直ぐに普段の無愛想な顔付きに戻り、ゆらりとその場から少し離れた所に身を移した。「御大将。他にも報告する事が・・・・・・。」「後でゆっくり聞く。後でな。」 離れようとするハンベエを見て、ヘルデンが更に報告を続けようとしたが、ハンベエはそれを遮った。長い事ロキはモンタを抱えたまま、空を睨んで立ち尽くしていた。ハンベエは少し離れて見るともない風情でその姿を見ていた。「可哀相に、ロキの苦心も水の泡になっちゃったね。」 いつの間にかハンベエの直ぐ横にイザベラが立っていた。「ホウゾインとルキドのやり取りを見ていたのか?」「まさか、今戻って来て知ったところだよ。」「だろうな。お前が見てたなら、こうはならなかっただろうからな。」 誰も彼も間の悪い事には一足違いであった。「水の泡か。俺は、ロキのした事が全く無駄だったとは思わん。ホウゾインの死に顔を見たが、何と言うか、意気昂然と言うか、誇らしげな顔付きをしていた。 ハンベエは誰に言うともない風情で呟いた。「何故それをロキに言ってやらない。」「言ったところでホウゾインが生き返る訳じゃない。おためごかしにしかならんだろう。そにロキなら大丈夫だろう。」「大丈夫?」「あいつの胸の袋の中には、きっと数え切れない程の悲しい事が詰まっているに違いないのさ。あいつの強さ、優しさ、聡明さはきっとその辺りから出て来てるんだろう。」ハンベエにしては、冗長なセリフである。「ロキの生い立ちを聞いたのかい。」「いいや、感じるだけだ。だが、分かるものは分かる。確認する必要が何処に有る。当人が喋るつもりの無い事を根掘り葉掘り聞くのは面倒だしな。」ハンベエの答えにイザベラももう何も言わなかった。泣き疲れたのか、モンタの体の震えも嗚咽も漸く収まっていた。ロキは腰を屈めてモンタと同じ高さに顔を持って行くと、手布を出して顔を拭いてやった。