「これも三津さんの幸せの為です

「これも三津さんの幸せの為です。どう?三津さん赤禰さんにドキドキする?したらそれは恋やで。」

 

 

「えっ嘘めっちゃドキドキしてます!恋ですか!?」

 

 

三津も両手を左胸に当てて混乱している。まんまと乗せられている。

 

 

「文ちゃん嘘教えなや!」

 

 

赤禰が参加してくると分が悪くなると入江は目を釣り上げて怒った。顯赫植髮

 

 

「それは三津さんの胸に聞かんと。桂様や入江さんに抱きしめられてドキドキする?」

 

 

文のその質問にうーんと考えた三津はしないと首を横に振った。「じゃあ赤禰さんにぎゅーってされたらどう?」

 

 

「小五郎さんと九一さんには慣れたけど武人さんにぎゅー……アカン!考えただけで心臓破裂する!」

 

 

「ほら!赤禰さんにはときめいちょるそ。新しい恋の始まりやな。」

 

 

文がにやりと笑うから赤禰は底意地が悪いなとけらけら笑った。

 

 

「いけん!武人さん早く三津の記憶消して!!」

 

 

「はいはい,そしたら文ちゃんの持っちょるお酒くれんかのぉ。」

 

 

文は首を傾げながらどうぞと徳利を手渡した。赤禰はそれを三津のお猪口に注いでどうぞと渡した。

 

 

「グイッといこうか。」

 

 

笑顔の赤禰にそう言われて三津は一気に呑み干した。するととろんとした目で微笑んだ。

 

 

「もうおやすみ。」

 

 

赤禰が頭を撫でながらそっと囁やけば三津はこくりと頷いてまた赤禰の膝枕で寝始めた。

 

 

「どう言う事?」

 

 

「三津は下戸なそっちゃ。呑んで寝たら起きた時には記憶ないそ。危ない,武人さんに恋するとこやった。」

 

 

入江はぽかんとしている文に説明して変な暗示かけんなと怒鳴った。

 

 

「武人さんも武人さんや。その気もないくせに三津惚れさすなや。」

 

 

「その気がない事もないぞ?こう言う形から始まる夫婦もおるやろうし。三津さん可愛いけぇ俺は問題ないし。」

 

 

「はぁ?信じられん!」

 

 

「いや,俺からしたらつげの櫛まで忍ばせるほど惚れとる奴がずっと同じ部屋で寝ちょるのに手ぇ出しとらん方が信じられんわ。」

 

 

赤禰の言葉に文が激しく同意して頷いた。

 

 

「萩の往復の間も本当に何もしとらんそ?でも三津さんの様子がちょっと変やと思ったんやけど。」

 

 

「九一,私は文句の言える立場にないから正直に話してくれていいぞ。私は隠されるより全て知らされた方が楽だ。」

 

 

桂は聞く覚悟は出来ていると酒を呑むには正しすぎるほど綺麗な姿勢で入江を見ていた。

 

 

「抱いてはないけど。」

 

 

「けど何なん?」

 

 

さっさと吐けと文が詰め寄る。

 

 

「旅の帰り,最後の最後で我慢出来んくなってお願いしたそっちゃ。」

 

 

「何を?」

 

 

もったいぶるなと文が急かすが,桂は今にも止まりそうなぐらい心臓が早鐘を打っていた。

 

 

「もう我慢出来んけぇ手ぇ貸してって。」

 

 

「……手?」

 

 

三人が声を揃えて何の事だと疑問符を浮かべた。

 

 

「そう。溜まったもん出したいけぇ三津の手貸してってお願いして貸してもらったそ。」

 

 

「つまりは……。」

 

 

「もうそこまで言ったら察してくれん?全部言わせんなや。」

 

 

説明するのは私でも恥ずかしいわと文を睨んだ。桂は少し遠くをぼーっと見つめてからグイッと酒を煽った。

 

 

「三津は……握ったのか……?」

 

 

「見なくていいならって言ってくれたんで布団の中に手だけ突っ込んでもらって。」

 

 

「お前何やらせてんの?」

 

 

赤禰は溜息をついて何だか目眩がすると上を向いてから手で目を覆った。

 

 

「やけぇ性癖があれやって言われるそっちゃ。どうせならそんな事せず抱け。」

 

 

「いや,こっちのが断然興奮したけぇ。」

 

 

「すまん……覚悟は出来てたんだが想像と違った上にそれを三津が了承したのが信じ難くて……どう反応すればいいか分からない……。」

 

 

桂は頭を抱えて目の前がちかちかすると何度も目を瞬かせた。

 

 

「ところで……この話フサちゃんに聞かせて良かったそ?」

 

 

入江の言葉にハッとした三人は赤禰の横にちんまり座っているフサを見た。

 

 

「フサも今年で十五になりましたので嫁に行くか婿を取るかの話も出ておりますので勉強になります。」

 

 

フサはお構いなくと笑ってペコリと頭を下げた。

 

 

「それより姉上は大丈夫でしょうか。」

「謝るなら三津さんに謝り。

「謝るなら三津さんに謝り。多分悪いのは自分って絶対高杉さんを責めたりせんけぇ。」

 

 

「分かった謝ってくるわ。」

 

 

文にそう言われすぐ様出て行こうとする高杉を待て待て待てと全員で引き止めた。

 

 

「お前本当に馬鹿やな。せっかく二人きりになっちょるんやけぇ邪魔すんなや。」

 

 

「相変わらず空気読めんのね。馬鹿やわ。」

 

 

「高杉はんが黙っとったら多分問題起きひんのちゃう?自ら引き起こすとか阿呆やん。」

 

 

入江と文と幾松は順番に高杉を罵ってお前は絶対動くなと叱りつけた。

 

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「三津!三津!待って!」

 

 

広間を出てそのまま阿弥陀寺も飛び出した三津の後を桂が距離を保ちながら追いかけた。

手を掴んでまた“触らんとって”と突き放されるのが怖くて近付けないでいた。

 

 

「海眺めたら帰るんで小五郎さんはしっかり食べといてください……。」

 

 

「一人にしたくない。三津は一人になりたいかもしれんが……。」

 

 

「だって小五郎さんに傍におってもらう資格私にはない……。こんな大変な時に癒やしの一つもあげられへん……。」

 

 

三津は悔しくて涙した。泣きだしてしまった三津を抱きしめていいものか桂は周りでおろおろしてしまった。

 

 

「ごめん……何で泣いてるの?」

 

 

情けないがそれも聞かないと分からない。

 

 

「悔しいし自分が情けなくて……。自分は留守番ばっかで頼られてないなんて思ってたけど小五郎さんがホンマに私に求めてた物を全然分かってなくて情けない……。」

 

 

「そんな事ないよ……。そう思わせたのは私なんだから……。」

 

 

抱きしめてもいいだろうかと何度も手を伸ばしたり引っ込めたりした。

 

 

「小五郎さんの傍には居たいです……でも割り切る自信ない……私の知らんとこで知らん人としてた事考えたら気がおかしくなる……。

私と出逢う前の過去の事なら割り切れたのにっ。」

 

 

三津はしゃがみ込んで泣き始めた。

 

 

「もっと私を責めてくれて構わない。本当に打ち砕いてくれて構わない。私が馬鹿だった。君を傷付けたとばかり思ってたが傷付けるどころか壊してたなんて……。」

 

 

桂もしゃがみ込んで三津の背中をそっと擦った。

 

 

「私はどんなに壊されてもまた君を愛する自信がある。だからいっぱい傷付けてくれ。もっと三津の痛みを私は知るべきなんだ。本当にすまなかった……。一人にしてごめん……。」

 

 

桂は泣いて震える体を抱き寄せた。飲み込まれそうな暗闇と三津の啜り泣く声をかき消す波の音。月明かりだけが水面を照らして今この世には二人だけと錯覚させる。

 

 

三津と二人だけの世界ならいいのにと桂が考えていると,

 

 

「頭冷やすのに海に飛び込んでいいですかね……。」

 

 

何とも恐ろしい一言が飛び出した。この暗闇で海に飛び込む?

 

 

「駄目!絶対駄目!絶対沈んで浮いてこない。」

 

 

三津なら本当に死ぬ気で飛び込みそうだから桂は行かせまいとその体を抱きしめた。三津は腕の中で大人しくしていた。

 

 

「自分勝手で申し訳ないがこのまま離したくない……。疲れが全部落ちるんだ……。」

 

 

「ふふっ温泉みたいですね。」

 

 

「あぁそうだね。身も心も解れるんだ。その癒やしに浸かってたいけど,それよりもまた三津を温泉に浸からせてあげたいから今度は私が温泉を巡る旅に連れて行くよ。」

 

 

「それは楽しみにしておきます。」

 

 

いつになるのか分かりませんけどと嫌味を添えるのは忘れなかったが,桂は必ず連れて行くと豪語した。約束の一つも守れない男でいたくないと。

 

 

「そろそろ戻りましょうか。せっかくの夕餉やったのにみんな気まずい思いで食べたんやろなぁ……。」

 

 

「大丈夫,文ちゃん居るからどうにかなってるよ。」

 

 

文への信頼感は本当に厚い。三津の心配も他所に桂の言う通り広間は何故か大盛り上がりで気まずい空気など一切なかった。それもそのはず,

 

 

「幾松……君は何をしてるんだ?」

 

 

「あらお帰りー。白石はんがちゃんと払うもん払うって言うから。」

 

 

着物はそのままだがしっかりと化粧をして芸妓風に姿を変えた幾松がみんなにお酌をし舞まで見せていた。

 

 

「やっぱ京の芸妓さんは綺麗ねぇ。」

 

 

文が胸の前で腕を組み満足気に頷いていた。

 

 

「文ちゃんの案かな?」

「だって……覚えてない……。」

「だって……覚えてない……。」

 

 

三津は泣きそうになりながら小刻みに震えた。

 

 

「何?お三津ちゃん何か失敗したそ?まぁお酒の席やしそれぐらい大丈夫やけぇ気にせん気にせん!」

 

 

セツはそう言うがそれで済まされる事ではない。

 

 

「ねー酔うと多少はみんな何かやらかしちょるけぇ。ちなみに私も今まだ酔っちょるそ。」

 

 

入江は三津の腰に腕を巻きつけて自分に引き寄せて密着させた。植髮香港

 

 

「もぉ若いのは朝から元気やなぁ。そんなんおばちゃんに見せつけんと部屋でして部屋で。」

 

 

「いいの?そしたらしばらく誰も来させんでね。」

 

 

入江はにんまり笑ってご馳走様と湯呑みをセツに渡した。セツも分かってる分かってると笑って簡単に三津を売った。

三津は泣く泣く相部屋まで連行された。

 

 

「とりあえずそこに座り。昨日何したか一から説明しちゃるけ。」

 

 

部屋に放り込まれぴしゃりと戸を閉められた。三津はびくびくしながら畳んだ布団の脇に正座した。

 

 

「なんにも覚えちょらんそ?」

 

 

「楽しかったのは覚えてます……。」

 

 

酒の席はそんなに好きではないが昨日は楽しかったとそこは記憶している。「武人さん口説いたのも覚えとらんそ?」

 

 

「え!?そんな失態を!?」

 

 

三津は両手で口元を覆って愕然とした。会ってまだ二日の殿方に酒の力で迫っただなんて。

 

 

「後で謝り。問題はそこやないそっちゃ。私にした事,思い出させてあげんとね。」

 

 

背筋が凍るほどの笑みがこっちを見ている。三津はぶるぶる首を横に振った。

 

 

「ごめんなさい!もうしません!呑みません!」

 

 

だから許してと涙目で訴えると入江は笑顔のまま三津に迫り両手首をしっかり掴んで捕まえた。

 

 

「もうしない?違う。次は三津さんの意思でちゃんと記憶がある時にやって?こうやって……。」

 

 

入江は昨日三津にされた事をそのまんまお返しした。

 

 

「全部鮮明に思い出せるように。」

 

 

三津は目を開いたまま気絶しそうだった。失態も失態。大失態だ。入江にこんな事をする程自分を開放的にさせるなんてお酒とはなんと恐ろしい液体なんだ。

 

 

「私にはこんな失態いくらでもしていいけど他の奴らにしちゃいけんよ?」

 

 

入江は三津の肩に顔を埋めて腕は体を抱きしめた。

 

 

「したくもないしするつもりも無いんで……。」

 

 

距離を下さいと腕の中で身を捩るが一層きつく締めつけられてしまった。

 

 

「三津さん……。」

 

 

「はい?」

 

 

「私も名前で呼んで。名前がいい。」

 

 

「九……九一さん……。」

 

 

「ふふっ幸せだ……。稔麿,玄瑞ごめん……。」

 

 

その呟きに三津は息が詰まりそうだった。三津は入江の幸せだの言葉に救われてきたのに,入江にとって幸せは二人への罪悪感そのものだったに違いない。

 

 

「九一さん……。いいんです。二人は絶対九一さんの幸せを望んでます。だから謝らないで。後ろめたい事なんて何一つない……。大丈夫やから……。少し休みましょ?膝使っていいですから。」

 

 

三津は入江に膝枕をして横にさせた。これ以上不安にさせないようにしっかり手も握った。

 

 

入江の寝息が聞こえて安心した所で廊下からごにょごにょ喋る声がした。

 

 

「おい!押すなや!」

 

 

「……高杉さん静かにしてもらえます?」

 

 

じっとりした目で戸を見ていると静かにゆっくりと開かれて高杉が顔を覗かせた。

 

 

「あ?九一寝ちょるん?」

 

 

「はい,だから静かにお願いします。」

 

 

「なんやつまらん。」

 

 

そう言って高杉が中に踏み込むと,それに続いてぞろぞろと山縣に白石,伊藤と赤禰まで入って来た。四畳半にこの人数は多過ぎる。「青白い顔して,入江にしちゃ珍しく酔ったんやな。」

 

 

三津の信頼を勝ち取った男,赤禰が小声で入江の体調を心配して寝顔を覗き込んだ。

 

 

「武人さん……昨日はご迷惑を……。」

 

 

「いや?俺も三津さんが楽しそうやけぇつい呑ませてもてすまんかった。体調は大丈夫なん?」

「待って。

「待って。俺は馬鹿三人を止めに行っただけだから。」

 

 

伊藤は濡れ衣だと訴えた。確かに伊藤は三人を連れ戻そうとしていたから馬鹿から排除してやった。

 

 

「こっちも疲れて寝たいのに何を期待したんか部屋の周りうろうろして挙句三津さん起こしたそ。」

 

 

「その時よ!寝惚けた嫁ちゃんが入江に向かってお帰りなさい九一さんって微笑んだそっ!あれは好いた男を落とす為の笑みやろがっ!」

 

 

「煩い寝れ。」 www.nuhart.com.hk/zh/

 

 

入江はまだ会話に参加してくる山縣の後頭部を徳利で殴りつけて強制的に寝かせた。

 

 

「俺も有朋も俊輔もみんなその笑顔見せられたお陰で興奮して寝れんくなったそ。」

 

 

「じゃけんお前ら朝すんげぇ人相悪かったんな。そりゃ高杉,起こしたお前が自業自得ぞ。入江なんかいいとばっちりやないか。同室で寝にゃいけんそいに。」

 

 

高杉を諌める赤禰の言葉に入江はうんうんと頷いた。これだけ客観的に物事を見てくれるから三津も懐いたんだと納得がいく。

赤禰は三津に好かれたのではなく信頼を勝ち取ったのだ。

 

 

「白石さんは寝れたんか。まぁ娘みたいなもんやから……。」

 

 

そう言う赤禰の肩に高杉が手を置いてゆっくりと首を横に振った。

 

 

「いい歳したこのおっさんが一番興奮して昂ぶり過ぎて気絶したそ。」

 

 

「うわぁ。三津さん白石さん家に預けんで良かったな入江。」

 

 

「危なかったわ。一番ムッツリで駄目なおっさんだ。三津さんをそう言う目で見てるって桂さんに伝えますからね。」

 

 

「入江君後生だ見逃して……。一つだけ何でも言う事聞くから……。」

 

 

入江はその言葉忘れないで下さいねとにんまり笑った。

 

 

そしてそのまま呑み続けて全員その場で雑魚寝をして,翌朝セツに大目玉を食らった。

 

 

朝餉にするからさっさと片付けな!と怒鳴っていたが台所に戻ったセツは怒るどころか上機嫌だった。三津が何で?と尋ねたら,

 

 

「みんな二日酔いで食が細るから米を炊く量が減るそっちゃ。」

 

 

とからから笑った。それはかなり助かる。

 

 

「お三津ちゃんも呑まされたんやろ?大丈夫なん?」

 

 

「はい!記憶はないですけど体調は大丈夫です!」

 

 

いつどうやって戻ったか分からないがちゃんと寝間着に着替えていた。脱いだ物もちゃんと畳んであったから間違いなく自分で着替えたはずだ。

 

 

「セツさーんお白湯欲しい……。」

 

 

情けない声が背後からして二人で振り返ると寝ぼけ眼で少しはだけた着物のままの入江がいた。「あれまぁ。入江さんが呑みすぎって珍しい。ちょっと待っちょき。」

 

 

セツはてきぱきと白湯を注いだ湯呑みを入江に渡した。青白い顔でありがとうと微笑んでその場で湯呑みに口をつけた。

 

 

「三津さん何ともないん?」

 

 

「大丈夫ですよ?そんなに呑んでないんで!」

 

 

眩しいくらいの笑顔を向けられ入江は目がしばしばすると目を細めた。

 

 

「三津さん昨日だいぶ呑んじょったそに覚えとらんほ?」

 

 

まだ眠そうな目で見つめながら首を左にころんと傾けた。はだけた着物に湯呑みを両手で持つ何とも隙だらけな入江がお国言葉で話しかけてくる。三津の心は鷲掴みにされた。

 

 

「覚えちょらんです!」

 

 

それを聞いた入江は一瞬黙り込んで目を瞬かせて声を上げて笑った。それからふらふら三津に近寄って耳元に顔を寄せた。

 

 

「じゃあ……酒で濡れた唇舐めるのは桂さんの遊び?」

 

 

小声で囁かれて呼吸が止まった。一気に血の気が引いた。恐る恐るすぐそこにある顔を見たら意地悪く笑う目に捉えられた。

 

 

「覚えちょらんそ?舐めたの。」

 

 

入江は人差し指を自分の下唇にとんと置いた。

 

 

「お……覚えちょらんです……。」

 

 

「そう。でも私の事弄んだ責任,とってね?」

 

 

正面からしっかり顔を合わせてこれでもかと言うくらい口角を上げた。

「私は……新選組のみんなに顔がバレて

「私は……新選組のみんなに顔がバレてるので私が行けば小五郎さんが居ると知らせてるようなもんですからね……。」

 

 

「すまない。」

 

 

桂は三津の物分りの良さに少しほっとしつつも,自分に執着していないようで寂しくもあった。

 

 

「向こうに着いたら必ず便りを出す。待っていてくれる?」

 

 

三津は何度も頷いた。ようやく顔を合わせられるようになったのにまた離れ離れだ。流石に聞き分けのいい三津でもそれは辛い。

涙で言葉も詰まり頷くしか出来なかった。顯赫植髮

 

 

「道中……お気をつけて……。」

 

 

それを言うのがやっとで桂の顔も見れなかった。

 

 

「三津,必ず迎えに来るから。私の妻になれるのは君しかいないんだ。」

 

 

桂は三津の髪や耳や頬に触れ,その全てが愛おしいと抱きしめた。次の再会がいつになるかも分からない。会える保証もない。でもずっとこうしてもいられない。

 

 

「愛してるよ,三津。」

 

 

甘い言葉と口づけを最後に二人は別れた。

桂の言葉が吉田の最期と重なって三津は一晩中泣き続けた。桂が京を発って三津は度々河原町辺りに足を運んだ。功助とトキを見つけたのだ。二人の元を訪れては新たな生活の手助けをしていた。

 

 

「三津,そんな頻繁に来て大丈夫か?」

 

 

功助は元気な姿で三津が現れて喜んだが,それよりも新選組に見つかることを恐れた。

 

 

「大丈夫,そんな長居せんから。それに吉田さんが守ってくれてるし。」

 

 

三津の背中には常に脇差が背負われている。それだけで心強いんだと笑った。

 

 

「ホンマにあんた強くなったなぁ……。」

 

 

トキは以前より涙脆くなっていた。三津の前でも簡単に泣いた。

 

 

「向こうでいっぱい教えてもらったことあるねん。だからそれを無駄にせんように頑張らんと。」

 

 

「功助はんおトキはん!あっち壬生狼来とる!みっちゃんはよ帰り!」

 

 

相変わらず近所のみんなも三津の味方だ。だから尚更ここに居たいし,頻繁に来ても大丈夫と思っていた。

 

 

「ありがとう!そしたらまたね!」

 

 

三津はすたこら逃げ帰る。それを毎日繰り返していた。だから意外と今の生活に苦は感じていなかった。苦を感じない理由はもう一つ。

 

 

「あっおかえりなさーい!」

 

 

「ただいま戻りました。」

 

 

定期的にサヤとアヤメが家に来てくれているのだ。最初に二人が訪ねて来た時には二人が無事だった事を泣いて喜んだ。そして二人から何故訪ねて来たかの理由を聞いて更に泣いた。

 

 

“一人じゃ寂しいだろうからたまに一緒にご飯を食べてあげてくれないか”

 

 

桂にそう頼まれたと言う。子供じゃないんだから一人でご飯くらい食べられるよと笑ったが,やっぱり一人じゃない方が良かった。

 

 

それともしこの家がバレても,ここはサヤの家で三津はそこに転がり込んでいると装う為でもあった。

そうやって支えられて三津は生活する事が出来た。

 

 

たまに桂から文が届く。元気にやっていると状況報告だけだ。居場所が知られるとまずいからどこに居るかの詳細が分からない。だから三津が返事を出す事は出来ないが,桂が無事でいるだけで良かった。

 

 

 

 

 

 

「桂は本当に生きてるんでしょうか?」

 

 

総司は焼けた町の復興を手伝いながら斎藤に問いかけた。

 

 

「分からん……。御所のとある場所で奴の鉢金が落ちていたと言う者もいるが……桂はあぁ見えてどちらかと言うと何事にも慎重派だ。あの場に居たとは思えん。」

 

 

「じゃあ……三津さん連れて逃げたんですかね……。三津さん無事かなぁ……。」

 

 

総司も斎藤も桂の行方よりも三津の行方の方が気になった。「もし三津さん見つけたら捕縛ですかね?」

 

 

「あぁ,捕まえろ。桂の居場所知ってやがるかも知れねぇからな。」

 

 

「土方さん,何故焼けた家の撤去の手伝いに来てるのにそんなに小綺麗な恰好なんでしょう?」

 

 

自分や斎藤は煤と汗と土に塗れていると言うのに。汚れてないし汗一つもかいてない涼しい顔した土方に笑顔で嫌味を言い放った。

桂には早朝と夕方におにぎりを届

桂には早朝と夕方におにぎりを届ける約束をして名残惜しくもその日は別れた。

家に戻った三津は箪笥の引き出しを開けてみた。

 

 

「こんなに……。」

 

 

今まで触ったことのない量の金子が包まれて引き出しに入っていた。その金子の横にトキが使っていた覚えのある巾着。

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「おばちゃん……あの時は嫁がへんって言ってたやん私。」

 

 

三津は目を潤ませながら口元を緩めた。それからよしっ!と気合を入れて着ていた着物を脱いだ。

 

 

「ごめんなさいっ!」

 

 

着物に向かって手を合わせて謝って着物をわざと汚したり割いてみすぼらしく繕った。

 

 

「うん,これなら馴染める。」

 

 

仕上げにほっかむりまでして焼け出された町娘に扮した。

 

 

「すみませんけどついて来て下さいね。」

 

 

独り言を呟きながら脇差の風呂敷包みを背負って家を出た。

河原町方面に向かって歩く。どこも瓦礫の山で時折焼け焦げた何かに縋りついて泣く人に出くわした。

 

 

『酷い……。』

 

 

目を背けたくなる光景だがこれが現実なのだ。燃え尽きてどこに何があったかが分からない。多分甘味屋があったであろう場所を探して歩いていた。

 

 

『アカン……どこがどこか分からん……。』

 

 

半泣きになりながら歩いていると見かけた事のある顔を見つけた。

 

 

「あっ!あっ!」

 

 

扇子屋の主人だ。何度もお店で話し相手をしてくれた優しいおじさん。三津は知り合いに会えた嬉しさから全力で駆け出した。

 

 

「おじちゃん!おじちゃん!」

 

 

「え?あっ!みっちゃんか!?良かった!急におらんくなって心配しとったんや……。」

 

 

「ごめんね……ちょっとした縁があって……。ねぇ他のみんなは?」

 

 

ここに扇子屋の主人がいると言う事は……と周りを見渡して何もなくなる前の町の様子を頭に浮かべた。

 

 

「他のみんなも無事や。この近所の人らは早いうちから避難したからな。みんな火が及ばんかったお寺や神社に身を寄せとるわ。」

 

 

「誰がどこに逃げたかは分からんよね……でも無事なんやったら良かった!あとは自分で探してみる!」

 

 

三津は主人に向かってにっと笑った。その足ですぐにでも探しに行きたかったがここは一旦家に帰る事にした。

 

 

『何も考えずに走り回って土方さんとかに見つかったら大変や。』

 

 

隠れる建物すらなくなったこの場は危険だ。三津は急いで家へ戻った。家の近くまで来た時も誰かついた来てないか確認してから入る警戒心も身につけた。三津なりに学習した。玄関の戸を閉めて思い切り肺の空気を吐き出した。変な緊張感なのか高揚感なのかずっと胸はバクバクと大きく脈打っていた。

 

 

「お米あるっけ……。」

 

 

三津はまず食料を確認した。せっかくの二人の家なのに結局ほとんど藩邸に居た気がする。食料などほぼ取り置いてない。

 

 

「まだあるけど。」

 

 

何日保つだろうか。町のあの状況じゃ食料も簡単に手に入らないのではと思う。そしてやつれていた桂の顔を思い出した。

過酷な日が続くのなら体力はつけてもらわないと。

三津は自分の食べる分を少なめにしてあとは全て桂の為に使った。

 

 

三津は朝と夕刻に二条大橋まで行って橋の上から下を覗いて,桂が姿を見せるとおにぎりの包みを落とした。

手招きされる時は傍に寄ってもいい時でその時は喜んで土手を駆け下りた。

 

 

その生活が五日ほど続いて新たな転機を迎えた。その日は手招きをされて桂の傍に下りた。

 

 

「今日は話がある。よく聞いてくれ。」

 

 

いい報せか悪い報せか。三津はごくりと息を呑んで頷いた。

 

 

「だいぶ追手が迫っててね。出石へ行くことになった。」

 

 

「出石……とは……。」

 

 

どこですかと眉尻を下げて聞いた。どこであろうと桂と会えなくなる不安がのしかかる。

 

 

「兵庫の但馬と言う土地でね。そこに拠点を移して長州との連携を取る。君も連れて行ってあげたいんだけどね……。」

抱き寄せられて手で口を塞がれた

抱き寄せられて手で口を塞がれた。振り向くと桂が少しやつれた顔で微笑んでいた。

 

 

「良かった会えた。」

 

 

そう言って自分を見下ろしてくる柔和な顔を見て三津は泣きそうになった。

煤だらけの顔に着ている物も酷く汚れている。easycorp

 

 

「大丈夫ですか?どこか怪我は……。」

 

 

愛しい顔に手を伸ばして優しく指で煤を拭った。桂は三津に触れられる喜びに目尻を下げた。

 

 

「怪我はないよ。これはわざとこんな格好をしてるからだ。三津場所を移そう。」

 

 

桂は三津の手を引いて上流に向かって歩き出した。三津はぴたりと桂の背後について歩いた。見覚えのある三条大橋を通り越してさらに上へ向かう。

 

 

「悪いね,道は分かるかい?」

 

 

「川沿いを歩けば大丈夫です……あの場を離れないと追手が来るんですね?」

 

 

「理解が早いね。そうだ,我々は完全に朝敵となってしまった。今まで以上に厳しく追われる。君も新選組に追われるだろう。」

 

 

二条大橋の下まで来てようやく桂は足を止めた三津の方に振り返り細い体をきつく抱き締めた。

 

 

「私は何一つ守れなかった……。だがまだ終わってない。これからやる事が山程ある。」

 

 

「私は何か出来ませんか?」

 

 

家でじっと待っているあの時間がどれほど苦痛だったか。信じて待つしか出来る事はないだろうけど少しでも何か役に立ちたかった。すると桂は耳元で囁いた。

 

 

「三津の握り飯が食べたいな。」桂の為に出来る事がある。その言葉に三津は胸がいっぱいになった。ほんの些細な事だけど桂に必要とされた。それが堪らなく嬉しかった。

 

 

「はい,いくらでも握ります。喜んで。」

 

 

泣きそうになりながら笑って上を向くと桂はぷっと吹き出した。

 

 

「すまない,三津にも煤がついてしまった。」

 

 

桂の着物に顔を埋めたからおでこや鼻や頬が黒くなっていた。

 

 

「もっと汚してください。小綺麗な格好だと浮いてしまいます。私も身を隠さなアカンので変装にちょうどいいです。」

 

 

「物分りが良くなったね。三津は元々私を困らす事はあまりしない子だけど。

多分覚悟は出来ているだろうから今の時点で分かってる事を話す。」

 

 

桂は三津の後頭部を押さえて自分の胸に埋めさせた。

 

 

「今回の戦で玄瑞はもう戻って来ない。九一の方は行方が知れない。だが見ての通り焼け野原だ。生きている望みは薄い。」

 

 

三津は桂の着物を握りしめ,奥歯を強く噛み締めた。悔しさや怒りがそこにはあった。今回は自分の大好きな町まで奪われた。

 

 

何で戦なんかしたんだと喚き散らしたいがそれをぶつけていい相手が誰なのか分からず,三津の中で怒りがぐるぐると渦巻いた。

 

 

「みんな……自分のしてる事が正しいって思って動いてるのに……何でそこには得る物より失う物の方が多いんですかね……。」

 

 

「……すまない。」

 

 

別に謝って欲しい訳ではない。これも桂達が成し遂げようとしている事に必要な過程なんだろうとも思う。だけどどうして戦がその手段なのか,それしか本当に方法がないのか。それが疑問だった。

 

 

「私はこれから長州がいい方へ向かうように小五郎さんを支えますから。」

 

 

「あぁ,頼むよ。」

 

 

三津はそっと桂の胸を押して体を離した。

 

 

「見つかったらアカンのは分かってるんですけど,おじちゃんとおばちゃんを探したいんです……。」

 

 

「分かった。私の方でも……。」

 

 

「いえ,小五郎さんは目の前の事に集中してください。自分の事は自分でやります。」

 

 

三津は力強い目で桂を見上げた。そんな目で見られては何も言えないよと桂は笑った。

 

 

「家の箪笥の上の段の引き出しに私の給金と女将から預かった君の給金がある。それでしばらくは暮らせるはずだ。」

 

 

「私の給金?」

 

 

三津は首を傾げた。甘味屋には養子になる約束で生活の全ての面倒を見てもらっていて給金など発生してない。

 

 

「君が嫁ぐ時の資金に貯めていたそうだよ。」

 

 

トキの親心に三津はまた泣き虫になった。