「どう思うって…何の話だよ」

「どう思うって…何の話だよ」

 

「…ッカァァ〜、分かんねえかな。さっきの近藤さんだよ。俺らのことを臣下だの部下だのって…。仲間じゃねえってのかってェんだッ!」

 

 

永倉はどっかりと腰を下ろす。Visanne そこへ斎藤や監察方の島田魁もやってきた。

 

聞いて良い話なのか戸惑った桜花はこの場から去りたかったが、沖田が寝ているために動けない。

 

 

「…まあ、最近の局長はか傍若無人の気があるな。江戸の頃を知っているからこそ、思う事なのだろうが」

 

斎藤は手酌で酒を飲みながら、静かに呟いた。

その言葉に永倉は大きく頷く。

 

「そうなんだよッ。昔はもっととだな……」

 

永倉はそう不満を口にした。まだ残っている平隊士への配慮もあるのか、声量は控えめである。

 

 

「そうだなァ。偉くなっちまってから、どうも地に足が付いてねェっていうか…」

もその様に思います。我々がおめした所で、どうにかなるものなのでしょうか…」

 

原田、島田もそれに共感し頷いた。

そう言えば、沖田や山南も同じような事を言っていたと桜花は先日の夜のことを思い出す。

 

長い付き合いの彼等が言うのであれば、余程気になるのだろう。

 

 

「それになァ…。あの人は女癖が悪過ぎる。江戸におつねさんという嫁がいるのによ…。さっきのにご執心だぜ」

 

原田は溜息を吐いた。この男は女好きだが、運命を信じており嫁を取ったら、嫁だけを想うと心に決めているのである。

 

近藤の隣にべったりとくっ付いていたのは、木津屋という置屋に所属している金太夫という遊女だった。京の遊女でも指折りの美女である。

 

 

「しようとしていると噂もあるぜ」

 

「…近藤局長は大坂の新町にも通っているのでは無いか?」

 

 

仕事で大坂へ行く機会が今まで以上に増えた近藤は、その度に新町にある廓でも妓遊びをしていた。

 

 

 

「「英雄色を好む、とは言いますがね…」

 

島田も苦笑いを浮かべる。

 

此処まで思うところがあっても、組を抜けようとする幹部が居ないのは、元々の人徳あってのものだと桜花は思った。

 

 

「…鈴木君はどう思う」

 

ぼんやりと考えているところへ永倉から突然話を振られ、肩をびくりと跳ねさせる。

 

 

「え…私ですか。私は…それ程関わりが無くて。お忙しそうなので、稽古も殆ど沖田先生に付けて頂いてますから…」

 

「そうだよなァ……」

 

そう返答すれば、永倉の興味は直ぐに失われた。それにホッとしつつ、ある事を口にする。

 

 

「土方副長や山南副長へ御相談してみるのは駄目なのでしょうか」

 

「ん…あァ。それも考えたけどよ。土方さんは今抱えている事が多すぎて、これ以上心労を増やしちまうのも忍びなくてな。山南さんも優し過ぎるから、きっと何とかしようとして立場を悪くしちまう」

 

永倉は酒を煽りながら、頭をガシガシと搔いた。

 

確かに、土方は常に何かに追われている。山南も頼まれたらあれこれと手を焼くだろう。

 

 

「…後は近藤局長より上の立場となれば、会津公となるが」

 

斎藤の呟きに、永倉は心得たと言わんばかりに大きく頷いた。

 

 

「それだッ!決めたぜ、俺ァ会津公へ直談判するッ!切腹覚悟でな!」

 

永倉は拳を固めると、原田と斎藤、島田の方を向く。

 

「お前らも連名でどうだ。人数が多いほど効果もってもんよ」

 

三人は顔を見合わせると小さく頷いた。そして何とその場で連名を決定してしまう。

 

 

桜花はこの時、酔っ払いの言葉だと思っていた。

 

しかし、後日にという隊士を加えた六名が連名とした、近藤の非行五箇条の建白書を会津藩へ提出することになる。

 

 

近藤が一つでもそれに反論すれば切腹をする覚悟だった。

しかし、会津藩主かつ新撰組を預かると決めた