副長が斎藤の部屋の

 副長が斎藤の部屋の障子に掌をかけたとき、島田が声をかけてから返事をまたずに伊藤たちのあとを追って廊下をあゆんでいってしまう。

 

 気をつかっているのである。さすがは、気配り上手の島田である。

 

「斎藤、はいるぞ」

 

 入室の許可を求めるのと、朱古力瘤手術 障子をひらけるのが同時である。

 

「もうっ!急に開けるなよ。ちゃんと声をかけろっていってるだろ」

 

 って、反抗期の息子みたいに怒鳴ってこなかったので、副長はそのまま入室する。もちろん、しれっとそれにつづく双子とおれ。

 

 わお・・・。どよどよどんより感が半端ない。

 だれもがさほど、荷物があるわけではない。ゆえに、斎藤も荷造りをおえていた。

 

 斎藤は、自室の真ん中できちんと正座をしている。その両腿の上には、風呂敷包みがちょこんとのっている。

 

「斎藤・・・」

 

 自分で指名したにもかかわらず、斎藤の無言の非難に挫けそうになっている副長。

 

「承知しているつもりです」

 

 斎藤はでは、副長が配慮していただいているということを、わかっているつもりなのです。しかし、では・・・」

 

 斎藤は利き腕でないほうの人差し指で、まずは頭を、ついで胸を突く。

 

「斎藤、すまない。おまえしかおらんのだ。おれが信頼でき、隊士たちをまとめ、会津藩とうまく渡りあえるってやつがな。それに、会津候や会津のお偉いさんの信も厚いってこともある」

 

 副長も、そこはしっかり話をしておかねばならぬことを理解している。

 たとえ心中では後悔していたとしても。

 

 ぶっちゃけ、伊藤ら三番組の平隊士だけ向かわせてもいいのである。向こうには、三番組の伍長である久米部がいる。久米部が指揮をとっても、なんら問題はないのだから。

 

「斎藤、おめぇもわかってるだろう?」

 

 副長は、声のトーンを落とす。

 

「おめぇは、新八同様生き残るってことがわかってる。会津で、だ。おめぇほどの腕だ。おれたちといて万が一ってことがあるとも思えんが、念には念を入れておいても損はねぇ」

 

 副長は、坂本や中岡、山崎らのように、死ぬはずだったを克服したケースがある一方で、生き残るはずだったが歪み、死んでしまうという最悪のケースを想定している。

 

 それだけは、是が非でも回避せねばならぬのだ。

 

 だからといって、斎藤がいまこのタイミングでから離れ、会津にいったからといって、確実に生き残れる、あるいはなにも起こらぬ、とはいいきれない。

 

 それでも、副長は斎藤を手放すことを決意した。

 それは、ある意味では永倉や原田との別れよりもつらいものであろう。

 

「結局、おまえは会津に残ることになる・・・」

「いいえ。さえ撤回してもらえば、わたしはあなたについてゆきます。蝦夷であろうと、あの世であろうと」

 

 斎藤が膝立ちになったので、風呂敷包が膝から転がり落ちてしまう。それもかまわず、かれは膝立ちのまま両腕を伸ばし、副長の前腕をがっしりつかむ。

 

「お願いです、副長。わたしを、わたしを一人にしないでください」

 

 こちらの胸が痛くなるほど、斎藤の声が哀れっぽい。かれの頬を、涙がつたう。

 

 孤高の剣士。一匹狼の人斬り・・・。

 

 後世のさまざまな創作のおかげで、かれのことを勝手にイメージしていた。

 

 だが、実際はちがう。

 

 斎藤一は、が好きなのである。

 

 それ以上に、さびしがり屋さんなのである。

 

 信頼し、される仲間が、側にいるだけでいい。

 

 ただそれだけでいいのだ。「斎藤・・・。くそっ。なにいってやがる?気持ちはわかるが、いずれそれぞれがそれぞれでやっていかねばならん。いついつまでも、仲間内でよりそいあっててもいたしかたあるまい、ええ?」

 

 正論である。だが、さびしがり屋としては、副長のほうが一日の長がある。

 

 副長だってさびしいのである。副長だって、斎藤に側にいてもらいたいのである。それを、ぐっと我慢して、っていうか、ぶっちゃけ意地と見栄をはり、ついでに恰好をつけ、命じているのである。

 

 これは、BLカテに入る案件だと、勘違いされるのではなかろうか。

 

「斎藤。おまえ自身の力と運で、生き残るんだ。もっと自信をもて。そして、よぼよぼの爺さんになるまで、「新撰組三番組組長斎藤一」として生き抜くんだ。おまえなりの士道と、組長魂を貫くんだ」

 

 副長の声が、かすかに揺れている。そっと盗み見すると、