に逢いたい。

に逢いたい。

 

 

その様なことを思いつつ、山南は平常心を取り戻すかのように深呼吸をする。

 

「そのように心配そうに見ないで下さい。ただの戯れですよ。それよりも終わりましたか?」

 

 

筆が止まった桜司郎の手元を見遣ると、避孕藥 一通りは書けているようだった。

 

「あ…はい。見ていただけませんか」

 

 

失礼します、と文を手に取る。たどたどしくも、字体は滑らかで読みやすかった。そして時候の挨拶に、藤堂を労る文面、入隊を告げる文面。どれも訂正すべき点は見付からなかった。

 

 

「良いですね。問題ないかと思われます。では、御手数ですがこれを監察方へ渡してきて頂けませんか?」

 

 

新撰組では文を出す際には、監察方の改めが必要とされている。間者による情報の遣り取りを防ぐためだ。

 

桜司郎は頷くと、監察方部屋へ歩いていく。

 

 

僅かに閉まりきらなかった障子の隙間から、冷たい風が入って来た。

思えば、明里と出会ったのもこの様な日だったと、山南は思いを馳せるように淀む空を見上げる──日が暮れる頃。山南は桜司郎や沖田、松原を伴って島原に来ていた。

 

一人で来るのは憚られた為に、隊内でも穏やかで言いふらさない面々を誘ったのである。

 

 

「山南総長が花街て、珍しいなァ」

 

松原は小声で沖田に話し掛けた。それもその筈で、山南が自ら花街へ赴くのは決して頻繁ではない。

一月以上間が空くのもザラにあった。

 

「一人じゃ行けないのも、山南先生らしくて可愛らしいですよね」

 

いつも山南は島原へ行く時は、沖田や藤堂、永倉を伴っていた。沖田は女性が苦手という気質のため、ただの見送りだけして、何時もさっさと帰ってしまうのだが。

 

 

「可愛いって…それ沖田はんが言うか」

 

松原は肘で沖田の肩をつついた。その話を聞きながら、桜司郎はくすりと笑う。

 

 

角屋に着くと、四人は七畳程の部屋に通された。やがて、桔梗屋より明里と他の妓が一人やってくる。禿が茶道具を手にしており、明里へ渡した。

 

慣れた動作で明里は山南の横に座る。

 

 

「山南せんせ。随分お久し振りどすなぁ。うち、ずっと待っとったんえ」

 

明里は頬を膨らませると、ふいと顔を背けた。いつもは穏やかで優美な佇まいの彼女が子どものような真似をしたことに、山南は口元が緩む。

 

 

「ふふ…。それは済まないことをしました。ですが、貴女の事を忘れたことはありませんでしたよ。…逢いたかった」

 

冷静で飄々とした山南が、愛しさを隠そうともしないことに明里は嬉しさと共に、不安を感じた。

元々、山南は口が上手い方ではない。特に女性相手では、気の利いた言葉の一つすらまともに出なかった。

 

それを見て驚いたのは明里だけではない。沖田や松原は目を見開いて山南を凝視した。

 

 

「な、なあ…。山南総長ってあないな人やったっけ…。一緒に花街来たの久々なんや」

 

「いえ…。違う気もしますが……」

 

 

松原と沖田はひそひそと話す。

 

「…どうしましたか?明里」

 

「いえ…。うちも…逢いとうおした。お茶点てますよって」

 

 

明里は微笑むと鮮やかな手付きでお を始めた。

ふわりと湯気が立つ茶碗を山南の前に差し出す。すると、山南はそれに口を付けた。

 

「美味しいです。また腕を上げましたね」

 

茶に視線を落としながら、山南は柔らかな口調でそう漏らす。

 

「嬉しおす。山南せんせともっと一緒に居れますようにと、願を掛けさしてもらいました」

 

 

廓は、一晩の夫婦関係を味わう場だとも言う。だがこの二人は本当の夫婦のように落ち着いていて、互いを信頼し愛し合っているのだと、桜司郎は思った。

 

「…素敵ですね、お二人」

 

「山南先生は明里さん一筋ですからね」

 

 

沖田はそう言うと、