が合った。

が合った。

 

 もちろん、なにもかんがえないでおく。

 

 二人は、それぞれ刀を眼前にかかげるとなにやら語りかけている。

 

 いつものように儀式っぽいことをするのである。

 刀と同化するのか、連帽衛衣 あるいは感謝するのかしているのだろう。

 

 そして、準備が整ったようである。

 

 かれらは、自分の得物をおれに差しだしてきたので、預かることにした。

 

 俊春の「村正」も俊冬の「関の孫六」も、親父の形見のようなものらしい。

 

 ずっしりと重いそれらは、物理的ではなく、いろんな想いがこもっている。

 

 二人は副長に、それからおれたちに一礼をした。

 

 それから、おれたちの前方七、八メートルくらいの距離を置き、たがいの距離も置いて並び立った。

 

 そして、得物を腰のベルトにはさんで瞼を閉じた。

 

 打ち合わせをしたわけでもないのに、二人はまったくおなじ動きをしている。

 

 相棒はおれの脚許にお座りし、兄目線で弟たちをみている。

 

 かれらは再度目礼すると、それぞれの得物を抜いて正眼に構えた。

 

 そのきれいな構えだけでゾクッときてしまう。

 

 それから、本来なら木刀でおこなう警視流木太刀形をはじめた。

という警視流立居合も披露してくれた。

 

 流れるようでいて心に直接なにかを訴えてくる。それがなにかはわからない。

 

 だが、これだけはいえる。

 

 これほど無垢で清い形はない。

 

 これこそが、先人が修練の末に編み出した形である。

 

 気がつけば、涙を流していた。

 

 いつものように……。 俊冬と俊春の剣の形が、心に染み渡りまくっている。

 

 それは、おれだけではない。

 

 そっと見回すと、大人も子どもも涙を流している。

 

 泣いているというよりかは、勝手に涙が流れ落ちているという感じか。

 

 そうして、二人は納刀してから頭を下げた。

 

 剣の形の素晴らしさに拍手をすることも忘れ、余韻に浸ってしまう。

 

 全員がただ無言で涙を流して余韻に浸っているなか、二人がこちらにやってきた。二人は、申し合わせたように腰からそれぞれの得物を抜き取る。

 

 俊冬はおれに『之定』を、俊春は副長に『兼定』をそれぞれ差しだした。

 

 そのとき、伊庭が立ち上がった。

 

 そして、掌を叩きはじめた。すると、ほかのみんなも立ち上がり、拍手をはじめる。

 

 拍手は、いついつまでもつづいた。

 

 まぎれもなく、二人は本物の剣士である。

 

 親父も、あの世で鼻が高いだろう。

 

 

 

 

 明日の、というよりかは今朝の出発ははやい。

 

 厩の藁の上で寝ることにした。五稜郭内はいっぱいだし、どこかしら空いているスペースがあったとしても、探すのが面倒である。ここなら、気をつかうのはお馬さんたちくらいである。

 

 というわけで、面倒くさがりのおれたちは、厩で仮眠をとることにした。

 

「なにをやっているんだ?」

 

 あいかわらず眠らない男たちである俊冬と俊春は、またもや内職をやっている。

 

 火を焚き、そこでなにやら作業をしているのである。

 

 みんな眠ってしまっている。藁の上でも、地面の上に筵をひくよりかはずっとマシである。

 

 ただ、エレガンスな香りとはほど遠いにおいはするけれども。

 

 ただ一人、安富にとってはこのにおいもバラや金木犀に相当するのだろう。

 

 それは兎も角、焚き火のまえに胡坐をかいている俊冬と俊春の間に胡坐をかきつつ尋ねてみた。

 

 副長もいる。

 

 いてもいいけど、すこしでも眠っておけばいいのにって心配になる。

 

 って、のことはいえないか。

 

「なんだあ?おれがいちゃまずいのか?」

「だから、副長の体を心配しているだけです」

 

 副長が、火の向こうからいちゃもんをつけてきた。

 

「おまえに案じられるようになったら、おれもしまいだな」

 

 せっかく心配しているのに、そんなかわいくないことをいっている。

 

 向こう側にいる副長に、心のなかであかんべぇをした。それから、俊春の手許をのぞきこんでみた。

 

 シンプルなナイフが二丁あって、その内の一丁を磨いている。

 

「なにをやっているんだ?」

 

 俊春はナイフを磨きつつ、おれの真似っ子をした。

 

「みてわからない?ナイフを磨いているんだよ」

「わかるよ。そういう意味できいているんじゃない」

「じゃあ、どういう意味?どういう意味、どういう意味、どういう意味?」

「だから、三歳児みたいにきいてくるなって」

 

 ったく、いったいなんだっていうんだ?おれには、ちょっとした疑問を尋ねる権利すらないっていうのか?

 

「これは、戦闘用ナイフさ。アメリカの商人に譲ってもらったんだ」

 

 現代でいうところの果物ナイフをごつくした感じである。

 

「アーミーナイフみたいな?もっとこうごついのかと思っていた」

「映画にでてくるようなものを想像しているんだろう?」

 

 俊冬が話に入ってきた。