「だけど、きみたちがやってくれた。おれだけじゃない。亡くなったおおくの人たちや、その亡くなったおおくの人たちの親や子や妻や夫や兄弟や恋人の無念がすこしでも晴れただろう。感謝してもしきれない」
「やめてくれよ、ハジメ君。おれたちは、おれたちのやり方で対処したにすぎない」
俊冬は、わざと言葉すくなめに応じてくれた。
いまのおれには、朱古力瘤是什麼 そのほうがありがたい。
「ぽち、泣くなよ。きみは、マジで「泣き虫わんこ」だな」
自分の気持ちに区切りをつけるためと、湿りまくった場の雰囲気をどうにかしたかった。
だから、隣でまだグズグズと泣いている俊春の頭をなでつつ、かれをからかった。
「ぼくが泣くのはいつものことだよ。ハジメ君、きみだって泣いているじゃないか」
鼻をすすりあげてから、俊春が指が五本ある方の掌をのばしてきた。
掌じたいはちいさいのに、おれよりもずっとずっと分厚い掌である。
親父と出会って剣術をしったのにこれだけ分厚いということは、ほかの鍛錬同様気がとおくなるレベルで木刀や刀を振っているからである。
かれの指先が、おれの目尻を拭った。
そのときはじめて、自分が涙を流していることに気がついた。
そのあと、親父の話で盛り上がった。
副長は会ったこともない親父の話題なのに、会話にくわわり付き合ってくれた。
つまらないにきまっている。共通の友人とか知り合いだというならまだしも、まったく関係も面識もないのだから。
それでも、親父のことを質問したり親父のことをほめてくれたりした。
「おれとどっちが強いかな?」
副長にそう尋ねられたとき、副長はカフェインの効力がなくなって寝落ちし、寝言でもいっているのかと思ってしまった。
そう思ったのは、おれだけでない。俊冬と俊春も、呆れたように副長にのなかで一番のようなものです。それがどれだけすごいことか、わかっていただけますか?」
ローテーブルの向こう側に座るイケメンに問いかけた。
「はやい話が、おれには到底かなわぬってことだろうが?」
「ちゃうちゃう、ちゃいます」
ソッコーでツッコんだ。ちゃんと関西弁でそれっぽい雰囲気を醸しだして。
「この野郎、戯れにきまっているだろうが。ったく、生真面目にうけとるな」
イケメンに苦笑が浮かんだ。が、はマジである。
副長はきっと、チートな策であれば親父に勝てる自信があるにきまっている。
「おまえもおまえの親父さんも、生まれる時代を間違ったのかもな」
長椅子の背にもたれ、一丁前に、もとい優雅に脚を組むところなどじつに自然な動作である。
しかも、ムダにカッコいい。
だいたい脚を組むなんて動作、いったいどこで覚えたのだ?
「いや。存外、おまえら親子は、だれかの生まれかわりかもな」
「副長もそう思われます?そうなんですよね。おれもそうじゃないかって思っているところなんです。転生ってやつですよ。だったら、いったいだれだろう。きっとめっちゃカッコよくって剣術も強くってカリスマ性があってっていう、だれもがうらやむ人物が転生したにちがいない」
うんうんとうなずきながら、推測をぶってみた。
「きみは、ほんっとにポジティブだよね。もしもきみがだれかが転生したというのなら、どうかんがえても本物の相馬主計が転生したってことだろう?」
「ぼくもそう思う。それか、この戦いに参加したモブとか」
「きみら、失礼だよな。相馬主計ってところはうなずけるけど、ぽちのモブっていう推測は、いったいどうよっていってやりたいよ」
「まだ、なだけマシじゃないかな?もしかしたら、踏みつぶされたヒトデかもしれないだろう?」
「わんこのいうとおりだ。死してなお、悪臭を発しまくって様に迷惑をかけるってやつだ」
ヒトデの悪臭事件は記憶にまだあたらしい。
「ったく、なんでそうなるんだよ」
「まぁいいじゃないか、主計。おまえは、くるべきところにやってきた。あるいは、もどるべきところにもどってきた。それだけだ」
副長が勝手にまとめてしまった。
だが、たしかにそのとおりかもしれない。
そんなとりとめのないことも話しつつ、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。
気がつけば、室内に陽光が射しこんでいる。
今日は、いよいよ出撃である。
この室内の明るさだと、空は晴れ間がでているのかもしれない。
まさしく、嵐の前の静けさってやつだ。
長椅子に横になっている。ちゃんと軍靴も脱いでいる。体の上には、配給された毛布がかけられている。
天井からローテーブルの向こう側にある長椅子へとをうつすと、そこには副長が横になっている。おれ同様毛布がかけられている。
こんな細やかな配慮をしてくれたのがだれかは、かんがえるまでもない。
その二人の姿はみあたらない。それから、相棒の姿も。
副長とおれが寝落ちしたあと、かれらは鍛錬しにいったのだ。
それもまた、かんがえるまでもない。
また天井をみた。
シミっぽいものはまったくない。きれいなものである。
頭のうしろで掌を組み、それを枕がわりにした。
瞼を閉じてみた。
親父のことを、もうすこし思いだしてみようと試みたかったからだ。
二度寝というのは