「かまわぬ。おれも興味がある。なにせ、ぽちたまとっても親父みたいなものなんだろう?さっきも言った通り、どっかのバカ息子とくらべて笑ってやろう」
「副長っ!」
「おっと、すまぬ」
「それでは。だけど、主計。きみにとってはつらい話になる。いいのかい?」
「ああ。いずれしりたいとは思っている。ゆっくり話をきくには、いまがちょうどいいタイミングだと思わないか?」
「わかった。子宮內膜增生飲食 じゃあ、話すよ。わんこ、手拭いを準備しておけ。どうせ、泣きまくるんだから」
「大丈夫。ほら、ここに」
俊春は、すでに手拭いを握っている。
いつの間にか、相棒がお気に認定した椅子から俊春とおれの脚許に移動していて、そこに寝そべっている。
俊冬が語りはじめた。
何十年もまえからはびこっていた、闇の世界の話である。
警察内部では、それがあたりまえのようになっていた。京都府警だけの問題ではない。警視庁の一部分が司令塔になり、その影響力は全国にわたっていた。
その警視庁の一部分というのが、かなり地位の高い連中を指していることはいうまでもない。
親父は、それを暴こうとした。そのためにを落としたのだ。そして、おれも狙われた。
囮捜査で撃たれたのは、おれがへまをしたからではなかったのだ。そうなるよう罠が張り巡らされていた。おれは、それにまんまとかかったのである。
警察官僚も含め、すべてを操るラスボスは昭和だった時代から存在している大物政治家だという。
それこそ、ドラマや映画、小説にでてくるフィクサーというやつだ。
その影響力はすさまじく、首相を意のままに操る力をも持っているという。そんな大物である。
警察のトップクラスを意のままに操ることなど、じつにたやすいだろう。
そのラスボスのことはしっている。もちろん、そんな闇の面があるなどということはしらなかった。マスコミも、ラスボスの駒の一部である。たとえどこかの記者が真実の片鱗をつかんだとしても、そんなネタを記事にする新聞社なり出版社はまず存在しない。
淡々と説明する俊冬のは、その隣に座って真剣にきいている副長とだぶってみえるほど似ている。
結果的に、ラスボスは死んだ。たしか東京の有名な料亭で心不全か脳溢血か、とにかく高齢者に起こりえる死因で急死したと記憶している。
「きみの慰めにはならないだろう。やつは、おれたちのまえで死んだ。厳密には、ふろふき大根を咽喉に詰まらせ、呼吸困難で死んだ。ほら、老人って誤嚥をおこすことがあるだろう?それだよ」
俊冬に、マジなで告げられた。
かれらがそうなるよう仕向けたのは、想像に難くない。
「それと、きみの母上のことだけど……」
「お袋?お袋がこの件に関係して……」
いいかけてはっとした。
お袋は、おれがまだ物心つくまえに死んだ。交通事故だときかされている。
たったいままで、それを信じて疑ったことなど一度もない。
「ミスター・ソウマは、おそらくそのこともしっていたはずだ。ラスボスがミスター・ソウマに仲間になるようもちかけたがなびかなかった、といっていたからね。ああいう連中は、本人より家族を狙う。きみの母上もその犠牲になった。ミスター・ソウマは、それでも正義を貫こうとした。復讐ではなく、ね」
あまりの話の展開に、正直ついていけていない。
俊春が、おれの隣で俊春が鼻をすすりあげた。
俊冬は俊春のことを『泣き虫わんこ』というけれど、おれの家族のことで泣いてくれるなんてありがたい話である。
「こいつはそれをきいた瞬間、ラスボスを血祭りにあげようとした」
テーブルの向こうで、俊冬は俊春を顎で示した。
「もっとも、おれもだけどね。じわじわもだえ苦しみながら死んでいく様を眺めたかった。だが、ぐっと我慢した。なぜなら、ミスター・ソウマはそんなことを望まないはずだから」
おれの横で、俊春がまた鼻をすすりあげた。
声を殺しはしているが、『くっく』と泣いている。ってか、号泣している。
「五千歩譲って、ふろふき大根が喉に詰まるよう仕向けた」
「いや、それは譲りすぎだろう?それは兎も角、そいつが死んだのは、当時大々的に報道されたからしっている。そういえば、そのまえあたりだったかな。京都府警の上層部が根こそぎいなくなった。それには、おれに脅しをかけてきた警視もふくまれていた」
「ああ、雑魚どもね。連中、重傷を負ったきみを消そうとしたんだ。すまない。きみが撃たれたときは間に合わなかったんだ。だが、そのあとにきみを執拗に狙う連中はすべて排除した。二度ときみを狙えないようにね。つまり、警察にいられないよう、社会的に抹殺したわけだ」
「なるほど……」
なにもしらない間に、かれらはおれを護ってくれていたわけだ。
護ってくれただけではない。おれにはぜったいにできないことを、かれらがやってくれたのだ。