をのぞきこんでいた。

をのぞきこんでいた。

 

「これは、漫画やドラマじゃないんだ。ヒーロー気取りでいい恰好をして、してやられるのがおれなんてこと、あるあるだろう?」

「じゃあ、きみの得意なお笑い路線でいけばいいじゃないか。やられまくるのを笑いにかえる。これはだれにもできない、きみだけのオリジナルだろう?」

「フランス人に関西人のノリが通用するとは思えない。それに、新撰組だけなら兎も角、これだけの人数すべてから笑いをとるのは困難だ」

「残念だよ。經痛 じゃあ、おれがやっちゃおうっと」

「どうぞどうぞ。煮るなり焼くなりやっちゃってください」

「にゃんこ、ぼくがやる」

 

 俊春がちかづいてきた。

 

 いつになく、険しいをしている。

 

「わんこ。これは任務じゃない、お遊びのようなものだ。ムリをしなくても……」

「ムリなんかしていない。していないよ。大丈夫だから。できるよ」

をかわしてしまった。

 

「わかった。副長、わんこがやります」

 

 俊冬は俊春に一つうなずいた。それから、副長に体ごと向く。

 

「明日、出撃できなくなるのも兵力的に痛い。怪我をさせぬように頼む」

「承知」

 

 俊春は、険しいのままうなずいた。

 

 それから、士官たちにフランス語でなにかいいはじめた。

 

 俊春が外人っぽくおおげさなジェスチャーをまじえてなにかいいおわると、フランス軍の士官たちは大笑いをはじめた。

 

 この場合、俊春がおもろいネタで笑いをとったわけではない。

 

 話の内容はわからないが、フランス軍士官たちの笑い方は、なんとなく俊春を馬鹿にしているといった感じがする。

 

 その笑いを受け、俊春は華奢な肩をすくめた。かっこかわいいには、相手を小馬鹿にしているような笑みが浮かんでいる。

 

「たま、どうなっている?」

 

 副長が尋ねると、俊冬もまた肩をすくめた。

 

「今井をどういおうがかまわないが、ここにいるほとんどが誠のだ。それを馬鹿にするのは許されることではない。は、どの国のどんな将兵よりも勇敢だ。さらには、強い。きみたちの態度は、そんなの矜持を踏みつけにした。このままでは、この場にいる誠のはきみたちを許さない。だから、この場でどちらが勇敢で強いかはっきりさせよう、ともちかけました」

 

 俊冬が説明中に、伊庭がそっとちかづいてきた。があうと、かれは無言でうなずいた。

 

 心配をしてくれている。

 

 やっぱいい男だ。

 

 そっと周囲をうかがうと、会場内の将兵がこの周囲にあつまってきている。みな、なにごとかと注目すると同時に、こそこそと情報のやりとりをしている。

 

「でっ、連中はなんと申している?まっあの笑いかただと、だいたいの想像はつくがな」

 

 副長のいうとおりである。

 

「ご想像のとおりです。かれらは、わんこをみて『ちっちゃいガキが?ガキにつとまるくらいだから、サムライもたいしたことはない。ガキを相手にし、ケガをさせるわけにはいかない。ガキはガキらしく、のもとにかえっておっぱいでものんでいろ』、といっています」

「ワオ!パイ乙?パイ乙をのむってグッド・アイデアだな」

「だまっていろ、利三郎。おまえの趣味といっしょにするな」

 

 野村がボケっていうか趣味を叫ぶものだから、ソッコーでツッコんでしまった。

 

 ってかおまえ、そんな趣味があるのか?

 それに、パイ乙って?

 

 いったいだれが、そんな俗っぽい言葉を野村におしえたんだ?

 

 って、どうかんがえてもこの手の単語をおしえるのは、俊冬しかいないだろう?「主計、いまのはすごく失礼だよ。おれの名誉を踏みにじったもおなじことだ」

「はあああ?パイ乙なんて言葉を利三郎に教えたのはたま、きみしかいないだろう?ってかそんな言葉、よくしっているよな」

「パイオツって、どういう意味かな?」

 

 好奇心旺盛な永遠の少年島田が、またしてもしりたがっている。

 

 子どもらも、を輝かせてこちらをみている。

 

「おっぱいです」

 

 恥ずかしすぎて小声になってしまった。

 

「なんだと?きこえなかったぞ」

 

 なにゆえか、副長がクレームをたたきつけてきた。

 

「おっぱい」

「ああああ?腹に力をこめて怒鳴りやがれ」

「はいいいい?そんなことをいって、副長は意味がわかっているんじゃないですか。だったら、副長が教えてあげてください」

 

 おそらく、『おっぱい』という言葉じたいは、幕末くらいには使われていたかと思う。

 

「わかりました。わかりましたよ。おっぱいは、女性の胸のふくらみのことです」

 

 横隔膜を震わせつつ、会場内に響き渡るほどの大音声でいってやった。

 

 人体の構造っぽい表現にしたのは、苦肉の策であることはいうまでもない。

 

「女性の胸のふくらみ……」

 

 周囲の何人かがつぶやいた。

 

「ったく、わかりにくい表現をするな。乳だよ、乳」

 

 この場が下種な感じにならないように表現したというのに、副長がその努力を打ち砕いてしまった。

 

 副長のいまの表現は、身も蓋もないことはいうまでもない。

 

 それどころか、副長がいうとめっちゃエロい。

 

「なるほど」

 

 榎本がつぶやいた。

 

 

 

 どうもいつもと様子がちがうようだ。謎めいた二人の会話に、副長とばかりである。

 

 おそらく、この場にいるほとんどが、『乳』を脳内で思い描いているだろう。

 

 欲求不満な者もおおいはずだから。

 

「ってか、いまはそんな問題じゃないですよね?」

 

 エロが暴走してしまっては、威厳もなにもあったもんじゃない。

 

 本筋にもどそうとしてみた。

 

「わんこは怒り狂っています。かれらが『ちっちゃいガキ』、だなんていう究極の禁句をたたきつけたのですからね」

 

 俊冬は、まるでパイ乙なんてエロ話がなかったかのようにつづける。

 

 さすがは、わが道をゆく男である。

 

 ってか、俊春はそこを気にするのか?

 

 よほど背の低いことを気にしているんだ。

 

 おれも、背のことはコンプレックスになっている。

 

 だがしかし、俊春よりかはまだ高いし、致命的に低いというわけでもない。

 

 まだマシだ。

 

 が、俊春はちがう。子どもらにも抜かされてしまったし、致命的に低いといえるかもしれない。

 

 それこそ、ヤバしである。

 

 って、俊春と