翌日。桜司郎は早朝から伏見へ向かっていた。
『ワシは伏見の寺田屋ちゆう旅籠へ世話になる予定やき、気が向いたら遊びに来るがよ』
目的は坂本へ会うためである。子宮內膜異位症經痛 出会ったばかりだというのに、彼の言葉には不思議な説得力と心に残る力があった。そして遥かに大きな視野を持っている。故にもっと話しを聞きたいと思ったのだ。
かと言って、あくまでも桜司郎は会津藩お預りの新撰組の一隊士として、これからも生きていくつもりである。いくら坂本の言葉が響こうとも、道を変える気は毛頭もなかった。
やがて伏見へ着く頃には太陽は真上へ昇っていた。京と大坂を結ぶ大きな水運を持つ伏見は、人で賑わっている。
旅籠が軒を連ねている上に地図も無いため、見付けるまでに日が暮れてしまうと、そこらの町人へ声を掛けることにした。
「もし、寺田屋さんという旅籠は にありましょうか」
「寺田屋って薩摩の人が贔屓にしてはる旅籠やろ? 沿いにありますよって。大きな柳が目印どす」
何故薩摩なのかと思いつつ、町人へ礼を言うと歩みを進める。
に面している寺田屋は、三十石船が多く止まっていた。川岸には大きな柳の木が揺れている。
太刀を腰から取り、右手に持つと暖簾を潜った。すると、女将が出て来る。
「すんまへんなァ、今は満室なんどす」
「いえ、ここに滞在されている坂──才谷梅太郎さんという方に御用がありまして。居られますか」
「ええと、お名前は?今や物騒なご時世どすやろ、安全のために簡単にお通しすることは出来まへんのや」
警戒心を露にされているが、それもそうだと思いつつ、桜司郎は名乗った。それを聞いた女将は丁稚へ耳打ちをすると二階へと向かわせる。暫くすると、ドスドスと大きな音を立てて誰かが降りてきた。
「おお、桜司郎さんやか!早速、会いに来てくれたのかえ。支度をするき、待っていとおせ」
未だに寝巻き姿だった坂本はバタバタと二階へと戻っていく。女将は呆れたような視線を送っていた。
坂本の声掛けにより、二階へ通される。だらしなく着流しの襟元を緩ませ、髪は解れているが当人は気にする素振りすら無かった。
「いやあ、待たせてしもうて済まんちや。寝るんが明け方やったき、先程起きたばかりぜよ。わはは」
豪快に笑いながら、坂本は背伸びをする。上背があるせいか、天井に手をぶつけていた。どかりと胡座をかけば、が浴衣の裾から丸見えである。
男所帯に身を置く桜司郎は、最早褌ごときでは騒がずにむしろ呆れたような視線を向けた。
「いえ、私の方こそ突然押し掛けて済みません。あの、お酒がお好きと伺ったのでこれを。馬関での礼です」
桜司郎は道中で買い求めた清酒を差し出す。すると、途端に坂本は目を輝かせた。
「おお、何だか悪いのう。熱燗にして貰うきに、一緒に呑むぜよ」
いそいそとそれを手に下へ降りていく坂本は、まるで好物を与えられた のようである。やがて女将が熱燗とお猪口を持って上がってきた。
坂本は桜司郎の酌でそれを啜ると、唇を舌で舐める。胡座をかいた足に肘をつくと、口角を上げて桜司郎を見やった。
「──で、ワシに何か聞いて欲しいことがあるんか?顔にそう書いてあるがよ」
その言葉にドキリとする。決して顔に出したつもりは無く、