白岩は会釈をし横

した。

 

白岩は会釈をし横をすり抜けようとしたが、それよりも早く沖田が口を開く。

 

 

「白岩君。貴方、魚尾紋消除 今暇ですか?」

 

「は……?」

 

 

さりげなく行く手を塞ぐように立つと問い掛けた。

 

 

「宜しければ、共に出掛けませんか。今から甘味を食べに行こうと思いましてね」

 

 

これは彼に近付く好機だと、沖田は心の中で思う。

 

「…あの、申し出は有難いんやけど先生方の邪魔するのは忍びないんで、遠慮さして貰いますわ」

 

 

白岩は戸惑いの表情を浮かべながらそう言って頭を下げ、去ろうとするがその腕を藤堂が取った。

 

 

「そんなこと無いよ!俺、君と話してみたかったんだ。だから一緒に行こう!」

 

屈託のない笑顔を向けられ、白岩はたじたじになる。藤堂のそれはあの土方ですら折れる程の破壊力があった。

 

その思いがけぬ強力な助勢に、沖田は運が良いと思う。

 

そして攻防の結果、白岩が折れ三人で甘味屋へと

行くことになった。

 

 

沖田、藤堂の後を付いていく形で白岩は歩く。

 

余り馴れ合いはしたくなかったが、新撰組でも随一の剣術の腕前を持つ沖田を知る機会である。

 

二人の背を見るその目は非常に冷ややかで、それを見た者は思わず縮み上がる程であった。

 

 

悪寒を感じた沖田はハッとして後ろを振り返る。

すると瞬時に白岩は元の友好的な表情へと戻った。

 

 

「どないしました、沖田先生」

 

沖田は軽く辺りを見渡すが、特に何も無い。

 

 

「い、いえ…。殺気を感じた気がしましたが…。気のせいでしょう」

 

 

「殺気ね…。…仕方ないよ、総司。俺らは不逞浪士だけでなく、京の人間からも疎まれているんだからさァ」

 

 

藤堂は寂しそうにそうポツリと言った。

 

 

「平助……」

 

沖田は視線を反らす。

 

藤堂は元々人懐っこく、好かれやすい気質のためか、この様な扱いに誰よりも心を痛めていた。

 

近頃慣れては来ているが、それでも時々こうして現状を憂うことがある。

 

 

 

「…あ、御免よ。早く行こうか。もしかしたら品切れになってしまうかも」

 

 

藤堂は笑顔を作ると先を急いだ。

沖田、白岩はその後を追う。

 

 

三人は七条にある亀屋陸奥に着くと、早速、名物の和菓子である松風を頼んだ。

 

 

それは戦国時代てに、かの織田信長石山本願寺との戦いの中にて保存食として誕生したものである。

 

 

非常にコシが強く噛み応えがあり、噛む度にじわじわと甘味が出てきた。

三人は必死にそれを噛みながら会話を交わす。

 

 

「白岩君の故郷って何処なの?」

 

 

藤堂は茶を一口含み、視線を白岩へ向けた。

 

甘味を食べたことによって、藤堂の表情が元に戻ったため沖田は安堵する。

 

 

「俺は近江です。勘当されてしもたから無いも同然なんですけれどね」

 

 

白岩は気恥ずかしそうに言いながらも何処か影を帯びていた。

 

「へぇ。何故勘当なんてされたのさ」

 

「…ええと」

 

 

藤堂の質問に白岩は言葉を詰まらせる。

 

「それ…、言わなあきませんか?」

 

 

「あッ…、御免。言いたく無ければ言わなくて良いよ」

 

焦る藤堂に、気まずそうな表情を浮かべる白岩。

そんな二人を沖田は黙って見ていた。

 

 

白岩は普通の人にしか見えないが、あの土方が疑った人物である。土方の勘は大抵当たるのだ。何らかの探りを入れなければならない。

 

沖田は口の中の物を茶で流し込む。

 

そして深く息を吐くと、決意したように顔を上げた。

 

 

「…ねェ白岩君。私が当ててみても宜しいですか」

 

 

沖田は白岩の顔を覗き込み、笑みを浮かべる。

 

空気を読まないかのようなその発言に藤堂は慌て、白岩は驚いていた。

 

 

「ど…どうぞ」

 

そんなものも意に介さないかのように沖田は続ける。

 

 

「わァ、有難う御座います。…そうですね、奉公先から逃げ出したとか?」

 

その言葉に白岩は僅かに眉を動かした。

 

 

「いいえ」

 

だがゆっくりと首を横に振る。